クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症状)

2014年5月6日

『最近よく水を飲むようになったなぁ~』とふと感じたら、それは注意が必要な症状であると考える必要があります。暑かったり、緊張や興奮をした時だけの症状であれば心配がないと考えられますが、通常の生活を送っているのにもかかわらず、いつも以上に水を飲んでいる場合は要注意です。水をよく飲むに伴って、尿の量や回数も増える状態を多飲多尿と呼びますが、この多飲多尿状態は、体内での重大は変化の初期兆候となることがあります。多飲多尿の原因には、たくさん水を飲んでしまうから、たくさん尿(水)が出るものとたくさん尿(水)が出てしまうから、たくさん水を飲む必要があるというものの2つの分類があります。

多飲多尿を起こす主な病気
心因性、尿崩症、腎不全、アジソン(副腎皮質機能低下症)、クッシング(副腎皮質機能亢進症)、糖尿病、肝不全、子宮蓄膿症、医原性、高カルシウム血症、低カリウム血症、胃腸炎など。体の中のさまざまな部位の異常によって、多飲多尿という症状が出ます。

クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)を疑う症状とは
多飲多尿の症状に加え、以下のような症状が認められた場合には、本疾患を疑います。ただし、本疾患であってもあまり臨床症状が出ないこともあるので注意が必要です。
○食事を異常に欲しがる。
○息が荒くなる。
○お腹がポッコリと出る。
○全身的に毛が薄くなる。
○湿疹が増える。
○足腰が弱くなる。
クッシング症候群は、上記のような症状から徐々に進行し、やがて心臓や肝臓、関節、免疫系統を侵し、生命の維持が難しい状態へと発展していく疾患です。また、脳や肺の血管梗塞や脳神経症状(頭部押し付けや食欲廃絶)などの重大な合併症を起こすこともあります。

クッシング症候群の原因
クッシング症候群とは、副腎という臓器がつくる副腎ホルモンの過剰生成によっておこる様々な病態を示す言葉です。様々な臨床症状がありますが、原因は大きく2つに分けられます。
①副腎を管理している下垂体(脳の一部)の腫瘍による過剰生成(PDHと表現されます)
②副腎そのものの腫瘍による過剰生成(ATと表現されます)

クッシング症候群の診断方法
各種検査を組み合わせて行います。クッシング症候群の診断は、白か黒かというようにはっきりとしないこともあり、総合的な判断が必要な場合があります。

各種検査ならびに本疾患を疑う所見
○血液検査:好中球上昇、リンパ球減少、ALP上昇、コレルテロール上昇
○尿検査:尿比重の低下
○レントゲン検査:膀胱結石や腎結石、時に大きくなった副腎
○エコー検査:腫大した副腎、その他の合併症
○CT検査:腫大した下垂体
最終的な診断にはホルモン検査を実施します。ホルモン検査にはACTH刺激検査や低容量デキサメサゾン抑制試験などがありますが、いずれの検査であっても、偽陽性(本当は陰性なのに陽性と出てします)や偽陰性(偽陽性の逆)があるために、各種検査所見と照らし合わせながら総合的判断が求められます。

検査の実際(エコー検査)
近年では、エコー検査によって異常を起こしている副腎の描出が正確にできるようになってきたため、判断を迷うこともあるホルモン検査は不要では?と飼主さんに聞かれることも増えてきていますが、やはりエコー検査のみでは、どのような治療が必要なのかの正確な判断はできないので、各種検査を実施して総合的判断をすることは大切と考えられます。

下の画像は、同じような体格の別々の犬の副腎を示しています。クッシング症候群の原因によって形態が明らかに異なるため、
エコー検査は診断の一助として有効といえます。
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正常の副腎は、落花生のような形をしていて、大きさは7.4mm以下といわれています。

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下垂体腫瘍によって、大きくなった副腎です。ポイントは、正常な形をある程度保ちながら、左右両側で7.4mm以上に腫大します。

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副腎腫瘍です。片側性に大きくなり、形も原型をとどめていないのが特徴となります。

クッシング症候群の治療
完治よりも良好管理を目指さなくてはいけない事の多い治療となります。治療方法を決める上で、下垂体性なのか副腎腫瘍性なのか、さらには機能性、非機能性、または良性、悪性とさまざまに病態を分類して決められているため、ここでは治療選択肢の概要のみ記載します。
①放射線療法:下垂体性の治療(事前にCT検査による確定診断が必要となります)
②外科療法:副腎腫瘍の治療
③ホルモン療法:下垂体性または外科を選択できない副腎腫瘍の治療

クッシング症候群の予後
治療を開始した場合であっても、クッシング症候群には様々な合併症があるため、これらを完全に制御できることが難しい場合もあります。代表的な合併症として、神経症状や血栓による血管梗塞、腫瘍の転移による突然死などが挙げられますが、病態には個体差があり、なかなか予測が難しいと考えられます。おおよその予後に関して以下のようなデータが示されています。

下垂体性
○下垂体サイズが小さく、内科療法が奏功している場合、1年生存率80%、2年生存率
70%、3年生存率60%。
○下垂体サイズが大きく、放射線療法が受けられなかった場合、1~2年以内に神経症状の
出現の可能性が高い。
副腎腫瘍
○転移がない場合は、手術が成功すれば寿命の全うが可能性がある。
○悪性や転移があるものは、手術が成功した場合であっても突然死を起こす可能性がある。

クッシング症候群は、中年齢以降で発症することが多い疾患で、その初期症状がわかりにくい事も多いという特徴があります。また、複雑な病態のほとんどは、水面下で進行するため、『なんとなく年をとったのかな?』と思われがちな疾患ともいえます。検査や治療法には、多くの選択や総合的判断が求められ、選択する検査、治療法によっては高額な費用がかかってしまうこともあります。また、完治よりも管理を目指すことも多い疾患です。本疾患が疑われた場合、上記の事柄をすべて含めて、よく相談をしながら検査や治療を進めていくことが大切と考えられます。

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