2019年1月 日本獣医がん学会所感その2

分子標的療法薬として日本の獣医療で一般的に使用されているTKI薬剤(チロシンキナーゼ阻害剤)には、イマニチブやトセラニブといった薬剤があります。これらの薬剤は、抗がん治療薬として、これまでの抗がん剤とは全く異なる作用機序を持ち、従来の抗がん剤治療の限界(副作用においても本作用においても)を超えることが期待される癌治療薬に属しています。
がん細胞の表面には、増殖を開始するためのスイッチ(受容体型チロシンキナーゼ(RTK))があり、健康な生体内に存在するさまざまな物質を利用して、このスイッチ(RTK)をオンにすることで増殖を可能としていることが分かっています。TKIはこれらのスイッチ(RTK)がオンにならないように塞いでしまう方法を主な作用機序とし抗がん効果を発揮する薬剤です。このため、従来の、細胞の核に直接作用して、健康な細胞も含めてがん細胞を直接殺すという抗がん剤と比較して副作用が少ないというのが最大の利点です。
しかし、問題点があります。健康な細胞にも様々な、無数とも思える数のスイッチ(RTK)存在し、このスイッチ(RTK)を利用して活動しています。TKIの各薬剤が、どの濃度で、どの程度の種類のスイッチ(RTK)を塞いでしまうかがまだ完全に分かっていないという点です。健康な細胞のRTKを塞いでしまえば、その細胞は活動できなくなり、それが直接生体にとっての副作用として現れます。
TKI薬剤は副作用が少ないが、どのような副作用が出るのかが従来の抗がん剤と比べて予測が難しいという側面があります。しかし、TKIとRTKの解析は直実に進んでいます。今回の学会も、新しい知見の発表もあり、獣医療における学術的データの集積と臨床応用が、少しづつ直実に進んでいることが実感できた学会でした。

獣医師:伊藤

 

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