獣医腫瘍科認定医 Dr野上の腫瘍講座2

2023年11月26日

?犬の脾臓にできるシコリについて?

犬の脾臓には数mm~数十cmの巨大なしこりまで様々なものが発生します。近年ではエコー検査の普及に伴い偶発的に見つかることが多くなってきました。

犬の脾臓にできるしこりの良悪に関する報告では、良性:悪性=1:1とされ、さらに、悪性のうち約半数が血管肉腫という極めて予後の悪い腫瘍と報告されています(最近ではもう少し良性の方が多いのではないかという見解もあります)。

エコーなどの画像診断では良性悪性の区別や腫瘍の種類の特定は難しく、実際に脾臓を摘出してみないとはっきりしないというのが現状です。

 そうした特性によって、実際に脾臓にしこりが見つかった場合、手術すべきか経過観察かの判断に困ってしまったり、経過観察を選択したものの、経過観察中のしこりの腫大や転移への不安や、しこりが見つかった時点で手術を選択したものの、もしも良性であった場合、本当にそれが適切な判断であるか等、判断がとても難しいというのが特徴とも言え、実際の診察でも飼い主様からご相談にを受けることが多くあります。

?今回は脾臓にしこりが見つかった場合の対応方法について、様々な報告をもとに私見を交えまとめました。脾臓を摘出するか否かを考える際の手がかりのひとつとして参考にしていただけると幸いです。

??術前の検査において脾臓のしこりの良性・悪性の区別は全く困難なのか

  • 明確な区別は困難であり、摘出した脾臓の病理検査による確定診断が必須となります。
  • CT検査で血管肉腫に特徴的な「血管染み出し像」と呼ばれる所見(脾臓腫瘍内の動脈から造影剤が染み出る様子)が認められ、診断の一助となることがあります。血管肉腫の症例に必ず見られる所見ではありませんが、見られた場合には血管肉腫の疑いが強くなります。
  • 腹腔内出血が見られた症例のうち約70%が血管肉腫であったと報告されており、出血を認めた場合には血管肉腫の可能性を第一に考えます。
  • 数か月~数年大きさの変化がない小さなしこりの場合には血管肉腫ではない可能性や破裂するリスクが低いしこりである可能性が高いと考えられます。

? しこりが見つかった脾臓は摘出すべきなのか 

  • 現在は脾臓摘出における明確なガイドラインはありませんが、以下に示すいくつかの状況を踏まえて慎重に検討していきます。
  • 小さなしこりの場合、経過観察とし定期的に大きさを確認し、大きくなるようであれば摘出を検討します。
  • >2cmのしこりや、しこりが脾臓の表面に突出している場合、今後破裂し出血するリスクもあるため摘出を検討します。
  • しこりから出血が見られる場合、血管肉腫である可能性が高いことや今後も出血を繰り返すリスクが高いことから、早期に摘出することを検討します。
  • しこりの大きさに関わらず、ご家族と相談の上摘出する場合もあります。

血管肉腫における脾臓摘出の是非について

血管肉腫の場合、転移率が高いため脾臓を摘出しても予後が悪く(外科手術のみの生存期間中央値1~3か月、1年生存率<10%)、手術するべきか非常に悩むことが多いと思います。ご家族の方々としっかりご相談し、脾臓摘出におけるメリットがデメリットを上回ると判断できたら、予想されるリスクに対し細心の注意を払いながら手術を行います。

メリット

  • 血管肉腫で出血している場合、根治は難しくても手術によって脾臓からの再出血を防ぎ、生活の質を保つことができます。
  • 術前の検査にて血管肉腫疑いであっても、実は良性のしこりであることもあり、その場合は脾臓摘出によって非常に良い予後が期待できます。
  • 血管肉腫の脾臓摘出+術後化学療法による生存期間中央値は3~8か月と報告されていますが、ステージ1の場合(<5cm、腹腔内出血していない、他の臓器への転移が見られない)、予後の有意な延長(生存期間中央値12か月)が報告されています。

デメリット

  • 出血が見られるようなしこりの場合には貧血、凝固異常による出血傾向や血栓症、不整脈などの周術期リスクが高くなります。
  • 悪性腫瘍の場合、手術により脾臓からの再出血は抑えられますが、再発病変や転移先の臓器(肝臓など)での再出血のリスクは残ります。

術後の抗がん剤治療について 

術後の抗がん剤治療において、副作用や体力面など心配な点が多くあると思いますが、現在では標準治療であるドキソルビシン(3週に1回点滴、消化器・心臓毒性などに注意)による治療のほか、低用量の抗がん剤をご自宅で継続的に内服するメトロノミック療法もあります。ドキソルビシンと比較して若干効果が劣るものの、副作用が少ないことがメリットです。また、最近では抗がん剤感受性検査の実施により、その腫瘍に対し効果が期待できる抗がん剤の選択や必要な抗がん剤濃度の測定が可能となり、より的確で負担の少ない抗がん剤治療を行うことができるようになりました。抗がん剤治療の副作用が心配で躊躇されている方や、再発転移した場合にできる治療の選択肢としてお勧めできる検査です。

血管肉腫は根治や数年単位の延命効果のある治療法はなく、いまだに非常に手強い相手です。しかしながら出血や転移のない早期に治療を開始することで長い生存期間が期待できることから、やはり早期発見がとても大切であると感じています。

大好きなご家族と過ごすかけがえのない「いつも通りの一日」が長く続くよう、できる限りのサポートをさせていただきたいと考えております。

「脾臓のしこり」や「血管肉腫」において詳しく知りたい方はぜひ一度ご相談ください。

                           獣医師:野上

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