胃拡張・胃捻転症候群(GDV:gastric dilation/volvulus)

2010年12月6日

食後数時間内に突然落ち着きがなくなり、何度も何度も空吐きをしたり、涎を出しながら鳴き声をあげたり、腹部を舐めたり噛んだりする様子が見られた場合には、胃拡張・胃捻転症候群(GDV:gastric dilation/volvulus)を疑う必要があります。胃捻転・胃拡張症候群とは、なんらかの原因で食後の胃内にガスが大量発生し、ガスでパンパンになった胃袋が捻転をおこしてしまう疾患です。突然発症し、急速で致死的な進行を示します。一般的には大型犬で胸の深い犬種で起こりやすいといわられていますが、どの犬種でも起こりうると考えられるため、食後に様子がおかしいなと思った際には注意深い観察が重要です。

胃拡張・胃捻転症候群の症状

初期の症状
典型例では、食後数時間内に、突然落ち着きがなくなり、空吐き、腹部膨隆(胃内のガス貯留による)を示しますが、流涎や腹部を舐めるなどの症状だけを示す場合もあります。初期の段階では動物は自力歩行が可能な状態にあります。
中期の症状
フラフラとやっと歩ける状態となります。胃がガスで限界まで拡張した結果、胃自体の血液循環を障害するばかりでなく、周囲臓器(肝臓や脾臓、消化管)や大静脈などの圧迫や捻転を併発し、組織の壊死や感染、重度の低血圧を発生させます。この状態からは短時間内に急激に後期の症状へと進展します。
後期の症状
ショック状態で意識が混濁した状態となります。動物は横になったままほとんど動くことができません。圧迫を受けている組織の壊死の進行、壊死組織性毒素吸収によるエンドトキシンショック、不整脈や心不全の発現などから、多臓器不全に至り、短時間で絶命します。

胃拡張・胃捻転症候群の原因
明らかな原因は不明とされますが、多くの場合、多量の食事を急激に食べたり、採食直後の急激な運動、ストレス、使用している食器の形状などの関与が検討されています。基本的には、大型犬の胸の深い犬種で好発しますが、どの犬種でも潜在的に起こりえます。

胃拡張・胃捻転症候群の診断
身体検査所見(腹部膨隆)、臨床症状(空吐きなど)によって仮診断されます。確定診断にはレントゲン検査が必要となります。胃捻転に特徴的な“捻転ライン”を見つけることで診断されます。

初期の症状を示す症例のレントゲン写真です。写真の矢印の領域で特徴的な“捻転ライン”が認められます。
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胃チューブを使用し胃内ガスの減圧を行い、捻転の整復を行った直後です。捻転ライン”が消失し、胃拡張だけの状態にあります。捻転が解除されれば、急激な組織のダメージに歯止めをかけることができます。
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胃拡張・胃捻転症候群の治療
臨床症状に応じて以下の治療の組み合わせが行われます。
①致死的な合併症となるショックと感染症に対する治療:抗生剤、輸液
②拡張した胃の一時的な減圧:胃チューブ、胃穿刺
③胃捻転の整復、障害を受けた臓器の除去、摘出:全身麻酔下による開腹術
④胃捻転の防止:胃壁固定術の選択(チューブ胃造瘻術、切開胃腹壁固定術、ベルトループ                胃腹壁固定術、肋骨周囲胃腹壁固定術)

写真は、切開胃腹壁固定術を実施したものです。矢印の部位で、胃壁と腹壁が縫合糸により固定されています。胃壁固定術の選択は、動物の体格、組織のダメージの状況、術前の一般状態を熟慮して選ぶ必要があります。
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※本疾患においては、治療が実施された場合であっても、その死亡率は、軽度の症状で15%、重度の症状のものでは最大で68%といわれる非常に厳しい疾患です。さらに、無事に手術を終わっても、最初の7日間での死亡率が24%、3年間での再発率がおよそ10%とも言われています。死亡率を高める因子として、術前における不整脈の出現、胃壁の壊死、ショック状態、脾臓捻転の併発などがあげられています。

胃拡張・胃捻転症候群の予防
手術目的は、胃の減圧および捻転を防止することです。ガスによる胃の拡張そのものの、本質的な原因は不明であることから、術後も胃拡張に対する注意深い経過観察が重要となります。特に、術後すぐに胃拡張が生じてしまうと、強力な拡張力によって胃壁の固定部位が引き裂かれ、捻転の再発や胃穿孔が再発してしまいます。胃拡張に対する予防策として、有用性が証明されているデータはないものの、以下の点に留意することが重要と考えられます。

○食後4~5時間は運動をさせないこと。
○食事中、食後とも精神的にリラックスした状態を保つこと。
○1回の食事が多くならないように、1日量を3~4回に分けて行うこと。
○消化の良いフードを選択すること。
○食べ易い形状の食器を選択すること。
○症状に合わせて、食事とともにガス抜き剤などを使用すること。

胃拡張・胃捻転症候群は食後数時間での発生が多い疾患です。夕食後の発生であれば、発生時間が夜間の時間帯に多いというのも特徴の一つです。緊急の対処には複数のスタッフによる総力戦が必要な疾患です。お住まいの地域によっては、夜間に複数のスタッフが常駐する施設が利用できる場合があります。ホームドクターを通して、予め調べておくことも大切といえるでしょう。 

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