看護師セミナー8 血液・免疫Ⅰ

こんにちは。看護師の坂本です。
今回は血液免疫学Ⅰで、血液についての講座になります。
わんちゃん、ねこちゃんの具合が悪い時、病院で身体検査の次に行うことの多い検査が血液検査だと思います。
その血液について、どういう仕組みなのか、何がわかるのか。また血液の疾患について学んでまいりました。
以下に内容を記載させていただきます。

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血液・免疫学Ⅰ

血液疾患は一度症状が出ると生命に関わるものも少なくない。貧血による粘膜の蒼白、凝固系異常による紫斑や点状出血、呼吸異常や出血傾向などは保定をしている動物看護師も気付ける異常。また血液検査の結果をみて、追加で塗沫検査や他検査、治療の準備を早急に始められるように血液について理解しておく必要がある。凝固系異常、DICを疑っている場合早急の治療が必要なため検査結果はすぐ報告する。腎臓や脾臓の疾患でも血液異常は起こるため、保定で無理をさせないなどの注意も必要。体位移動での呼吸停止を起こしかねない場合もあるので動物の観察が必要。血液値が大きく異常を示していても、体力や動物の性格によっては元気にしている場合もある。元気にしていても突然急変する可能性がある事を念頭におき、看護を行う。家ではなるべく安静に出来るよう指示し、リスクの説明もきちんと行うこと。

身体の水分分布
身体の約60%が水分。そのうち細胞内の水分が約40%で、間質(組織)液が約15%、血漿が約5%、リンパ液が約1%以下である。この内、細胞内液,血液の水分が脱水してしまうと命の危険があるので、脱水症として水分が失われるのは、組織液である。
身体の血液量
循環血液量(臓器に貯蓄されていない身体を巡っている血液量)は、犬で体重の8~9%。猫で約6%。このうちの1/3を失うと命に危険が及ぶ。 身体から血液が失われると間質液から水が補給され血漿量が戻り始める。循環血液量は半日~2日程で回復するが、赤血球白血球などの血球成分は4~8週間かけて元の量まで戻る。この事から失血した場合、長期の治療、看護が必要となる。 血液は骨髄で生成される。

血液の種類
血漿
血液の液体成分。全体の約60%を占める。
血清
フィブリノーゲン
血球成分
全体の約40%を占める。
赤血球
白血球
好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球、単球がある
血小板

それぞれの働き

血清
血漿に含まれる成分。90%が水であり、残りの10%に糖質やアミノ酸、尿素、ホルモン成分、血漿タンパク、電解質、脂質が含まれる。 血漿タンパクには肝臓で造られ血漿の濃度調整を行うアルブミン、免疫に関与するグロブリンの2種から成り立つ。このためタンパク、アルブミンが低下した場合は肝臓異常も疑い、グロブリンの上昇の場合には感染症などを疑う。電解質は身体の酸化を防止したりお互いのバランスを保って成り立っている。脂質には中性脂肪やコレステロールなどが含まれ、これは上昇しても低下しても異常となる。

フィブリノゲン
血漿に含まれる、血液を固める成分。

赤血球
大きさは約7~8μmでこれは毛細血管に1つずつ通れる大きさ。ヘモグロビン(鉄分)が含まれ、酸素,二酸化炭素の運搬を行う。犬の赤血球は約4カ月で消失、猫では約2カ月で消失する。赤血球は脾臓で分解され、便や尿として排出する。このため、便や尿の色の変化は膵臓や腎臓膀胱、肝臓異常でおこることが多いが、赤血球や脾臓異常でもおこることがある。赤血球の分解された成分がビリルビンへ変化するので黄疸の原因も肝臓だけではなく、赤血球がどこかで壊され続け代謝が間に合っておらずにおこる事もある。骨髄に異常がある場合など、血液塗沫検査で網状赤血球など健康な子では見られない赤血球の前段階の細胞が見られる事がある。 血球の体積の量を示すヘマトクリット値は赤血球の量とほぼ等しい。このヘマトクリット値が下がると貧血を表わし、上がると脱水をおこしている事を表わす。 血液型は赤血球で決定し、諸説あるが犬で13種、猫で3種ある。人と異なり、犬猫は血液型を2種以上持っていることが多いとされている。

白血球
好中球
白血球の約60%を占める。細菌などの異物を取り込み(貪食)、身体を守る。血管内皮をすり抜け血管外で活動する事が出来る。異物に最初に反応して攻撃をする。白血球の総量の7~80%に上昇している場合、急性炎症の可能性が高く、発熱している事が多い。 好中球は貪食後、細菌を取り込んだまま死に膿となる。
好酸球
白血球の約3%を占める。寄生虫に対する生体防御をする。アレルギー反応に関与する。
好塩基球
白血球の約0~2%を占める。慢性のアレルギー反応に関与する。顆粒にヒスタミン等を含み、アレルゲンが結合するとアナフィラキシーショック、蕁麻疹などを引き起こす。
リンパ球
白血球の約30%を占める。T細胞、B細胞、Nk細胞があり、免疫反応の中心的役割。T細胞はマクロファージとともに抗原(微生物や癌細胞など)から身体を直接守り、B細胞は抗原から刺激を受けると、7~10日かけて抗体を産生する。その抗体が抗原をほぼ無毒化したり、他の細胞に排除されやすくすることで身体を守る。NK細胞は自己の腫瘍細胞やウイルス感染細胞を破壊する
単球 
白血球の約60%を占める。血管外の組織に出るとマクロファージとなり細菌や損傷した自己細胞を貪食する。長期戦になると出てきて好中球と同様に攻撃する。白血球の総量の4~50%に上昇している場合、慢性炎症の可能性がある。微熱がでることも。
血小板
核のない細胞。止血作用がある。傷などがあると形を変形させ、偽足と呼ばれる突起を出しそれで動いたりお互いをくっつけ血栓をつくり止血する。

造血機能
全ての血液は骨髄にある多能性造血幹細胞から造られる。血球は成熟してから骨髄を出て、全身の血管に移行する。
赤血球の造血因子は、腎臓で産生されるエリスロポエチンというホルモン。
白血球は、病原体などが体内に侵入した事を感知すると、インターロイキン、コロニー刺激因子という造血因子が放出され白血球の生成を促進する。
血小板は、血中のトロンボポエチンによって調整されている。
止血機能
血管が損傷すると、血管壁に血小板が凝集し血栓を形成して止血する(一次止血)
一次止血の後、血小板の血液凝固因子が連鎖的に活性化してフィブリンを形成し、網状に血栓を包み止血が完了する。(二次止血)
損傷した血管壁が修復されると、たんぱく分解酵素によりフィブリンが溶解し血管が元に戻る。圧迫止血は静脈のみ行う事が出来る。筋肉が薄く様々な太さに収縮する事が出来るため、3~5分は出血を止める事が出来、その間に上記一次止血等が行われる。動脈は筋肉が厚いため結紮止血を行う。
輸血
命に関わる重度の貧血や凝固系異常などの際に行う。輸血は一時的な対症療法であり、根本的な治療ではないことを理解しておく。 輸血は生体内に他者の細胞(異物)を入れるということなので、事前に十分な検査を行わないと輸血反応という副反応が起こってしまう場合がある。副反応には、発熱、嘔吐、頻呼吸や不整脈などがある。他にもDICや溶血性輸血反応を起こし死に至る場合もあるので、輸血中は細心の注意が必要である。

血液疾患

免疫介在性溶血性貧血
自己免疫の異常によって、自己の赤血球を破壊してしまう。マルチーズ、プードル、シーズーの雌犬に多くみられる。
進行が早く、致死性が高い。症状は、発熱、可視粘膜蒼白、黄疸、血色素尿など
血液検査で、貧血、球状赤血球(塗沫検査)、赤血球の大小不同が見られる
治療はステロイド等による免疫抑制、輸血など

タマネギ中毒
ネギ類を食べることで、ネギ類に含まれる水溶性の物質(アリルプロピルジスルファイドなど)がヘモグロビンを酸化させる、溶血性貧血をおこす。
症状は、ネギ類を食べてから数日以内に溶血性貧血、血色素尿など
血液検査で貧血、ハインツ小体(塗沫検査)が見られる
治療は食べてすぐならば催吐処置、症状後であれば、対症療法、抗酸化剤、ステロイド剤の投与、輸血など

バべシア症
マダニの吸血時に体内に侵入したバベシア原虫(寄生虫)が赤血球寄生し、壊し溶血性貧血をおこす。
症状は、マダニ寄生の2~4週間後に発熱、黄疸、血色素尿など
血液塗沫検査でバベシア原虫の確認をする。
治療は抗原虫、抗菌剤の投与、輸血など

白血病
造血器系の腫瘍で骨髄の中で白血病細胞が異常に増殖し正常な白血球などが減少。 また造血機能も低下するため貧血を起こす。犬では原因不明だが、猫はウイルスの感染によって急性白血病がおこり、致死率が高い。慢性白血病は症状が緩やかである。
症状は持続性の下痢、鼻炎、結膜炎、リンパ節の腫れなど様々
治療は抗がん剤などの化学療法、輸血など

猫白血病ウイルス感染症
咬傷や濃厚な接触で猫白血病ウイルスに感染し免疫不全や感染症を引き起こす。リンパ節や骨髄、脾臓など全身臓器に感染が広がる。
症状は口内炎、鼻炎、結膜炎などと造血器系細胞の腫瘍化を引き起こす場合と、破壊を引き起こす場合がある。
通常感染後4週間程度でウイルス抗原が陽性になるためウイルス検査で検出できる
治療は感染症に対する対症療法になる。

猫免疫不全ウイルス感染症
咬傷で感染し、リンパ球を破壊し、後天的免疫不全症候群をおこす。感染初期には発熱やリンパの腫脹などの症状がみられ、その後一旦なくなる。無症状のキャリア期を数年間経て、次第に免疫機能が低下し口内炎、結膜炎、下痢などの感染症に伴う症状を発症する。また慢性腎不全を発症する事も多い。
ウイルス検査で検出できる。
治療は感染症に対する対症療法になる。

リンパ腫
リンパ球系細胞が異常に増殖し腫瘤を形成する。悪性リンパ腫のステージはⅠ~Ⅳに分類され、ステージが上がるごとに予後が悪い。
Ⅰ:一か所のリンパ節にとどまっている。
Ⅱ:上半身、または下半身のどちらか一方にとどまっており、二か所以上のリンパ節に広がっている。
Ⅲ:上半:、下半身どちらのリンパ節にも広がっている。
Ⅳ:リンパ節以外の臓器や骨髄、血液に広がっている。

症状は腫瘍の出来る場所や悪性度によって様々でリンパ節の腫脹だけの場合や、呼吸困難、嘔吐や下痢などがある。
細胞診やPCR検査で診断がつく。
治療は化学療法、外科療法、放射線療法、対症療法など様々

免疫介在性血小板減少症
自己の血小板を破壊することで減少し、出血傾向がおこる。自己免疫疾患が主な原因で腫瘍や激しい炎症、感染症、薬物投与、ワクチン接種後に続発しておこる場合もある。犬に多くみられ、猫ではまれ。
症状は体表や粘膜部の点状出血、紫斑など
治療は免疫抑制療法、輸血など

播種性血管内凝固(DIC
ショック、感染症、悪性腫瘍などによって血管内の凝固が過剰に亢進し、多くの微小血栓が生じることによって、急性腎不全や肺不全などの臓器障害をおこし、血液中の血小板や凝固因子が枯渇するため皮下出血などの様々な出血傾向を示す。
命に関わる重篤な状態。
症状は元気消失、点状出血、紫斑、出血傾向など
血液検査で判断する。PT,APTT,FDPの高値など
治療は原因疾患の治療、へパリン療法など

このように代表的な血液疾患は命に関わるものが多いことから、知識をしっかりもち看護を行う必要がある。ショック状態になりやすいということを理解し、ささいな動物の変化も見逃さない。酸素吸入をすぐ行えるようになど事前準備にも注意する。

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いかがでしたでしょうか。

難しい単語なども多かったと思います。
血液疾患にもさまざまなものがありますが、命にかかわる怖い疾患も多いです。
診断時の獣医師からの説明や、資料などを読んで不安になることも多いと思います。
私達看護師もきちんと知識をもって、その子その子により良い看護ができるように努力し続けたいです。

次回は血液・免疫Ⅱで免疫についてを学びますので、またまとめてお伝えさせていただきます。

看護師:坂本恵

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