こんにちは。看護師の坂本です。
今回は耳についてです。耳は疾患としては多い場所ですが、構造をすべて理解している方は多くないと思います。
構造について、疾患について、また洗浄や点耳の注意点についてまとめてあります。
以下内容
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耳科
耳は音を聞く感覚と、体の傾きや回転を感じ取る感覚を担う感覚器。
耳は日ごろから手入れできるようにしておかないと、1度炎症を起こすと、炎症を起こしていない耳の細菌バランスには2度と戻れないと言われている。そのため症状が出てしまうと長期化、慢性化しやすい。
どんな子でも高齢になっていくと老齢の難聴になっていく。聴覚、視覚から低下していき、味覚、嗅覚は最後まで残ると言われている。日頃の耳の管理と構造の理解で少しでも聴覚を失わないよう、疾患にならないようしていくことが大切。聴覚が無くなったからと言って、全く声をかけないという事はしてはいけない。何か言っている時の空気の振動や雰囲気を犬や猫は感じ取れるので、聴こえていなくても声をかけてあげる事が必要。抱き上げる時は視界に入ってから身体や心の準備をさせて、ゆっくり触れ抱き上げてあげる事。触れる際も手のにおいを嗅がせるなどしてから、ゆっくり撫でると良い。
耳の疾患の中には聴覚障害になるものの他に、平衡機能障害になることもある。その際はまっすぐ歩けないなどの歩行障害も出現するため、自宅でも安全な環境を整えることなど適切なアドバイスができるようにしておく。
耳は形により性格がわかれている事がある。これは、人が様々な耳の形の犬種を生み出しているからで、耳が垂れていたり、尾が巻いている犬種は特に人に従順で甘えん坊な子が多いと言われている。
?耳の構造としくみ
耳は外側から、外耳、中耳、内耳の3部分から構成されている。
外耳から内耳へは全て繋がっているので、外耳炎から中耳炎、内耳炎へ進行していく事があるので耳がおかしいと気づいたら、早めの治療が必要。
外耳
外耳は体表から飛び出している耳介と中耳まで続く外耳道からなる。
音を集めやすいよう軟骨によって形成されており耳介筋によって耳を動かして音源をつきとめている。犬猫の外耳道は、はじめ垂直に下に向かう垂直耳道と、途中で方向を変え水平に内側に向かう水平耳道がある。
外耳道の細胞構造は皮膚と同じ
?中耳
中耳は鼓膜、耳小骨、鼓室からなる。
鼓膜は皮膚と同じ構造なので敗れてしまっても修復され、また出血もする。
耳小骨は3つの骨からなり、それぞれ鼓膜側からツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨と名前がついている。その奥に鼓室と呼ばれる広い空間がある。中耳には鼓室内と外界の圧力を等しくする役割があり、内外圧を均等にしている。
内耳
最も奥にあり、複雑な形をした骨迷路と呼ばれる骨の空洞とその中に同様の形をした膜迷路がある。内耳は前庭部と蝸牛部に分けられ、前庭部は前庭と半規管という骨迷路と、球形嚢、卵形嚢、半規管という膜迷路からなる。蝸牛部は蝸牛という骨迷路の中に蝸牛管という膜迷路があり、蝸牛管の上下にはリンパ液で満たされた前庭階と鼓室階がある。蝸牛管と鼓室階をわける基底膜の上にコルチ器という感覚器官がある。
前庭は体の傾きを感知し、この情報が脳に伝わり頭の位置を決定する。半規管では回転すると中にあるリンパ液が流動し、それによりクプラという感覚毛の上にあるゼラチン成分が動かされるため、向きや回転を感知する。蝸牛部には聴覚の受容器であるコルチ器が存在し、音の振動を感知している。
耳科の検査内容
耳介の検査
耳介の検査は皮膚検査と特に違いはないので、症状に合った皮膚検査を行う。
耳介の脱毛の原因には感染症などの可能性もあるが、甲状腺や副腎皮質機能の異常である内分泌疾患の可能性もあるので血液検査やホルモン検査を行う必要がある場合もある。
?耳鏡検査
耳鏡を使用して外耳道の観察を行う。耳鏡に装着するスペキュラコーンを選択する時は挿入可能なサイズのうち、できるだけ大きな口径を使用することが一般的。
耳鏡による観察では、耳道が開存しているか、外耳道の色調、増殖性変化の有無、外耳道壁の潰瘍病変、腫瘍の有無を確認し、動物によっては鼓膜の観察も可能。
レントゲン、CT検査
耳道狭窄のため、耳鏡で鼓膜までの全ての耳道が確認できない場合の評価や耳道内の腫瘤の評価、中耳の評価などを主な目的として行われる。また、難治性の外耳炎では、腫瘍が存在したり、中耳に炎症が及んでいる事も多いため、画像診断が重要になることもある。
?耳垢の塗沫細胞診
原因菌の特定や、感染症を疑う時に行う。水平耳道の耳垢を採取するのが望ましい。
疑う原因菌の種類により、塗沫のみで顕微鏡検査を行うものと染色してからに行うものに異なる。
細菌培養、感受性検査
原因菌を調べるために細菌培養検査を行う場合がある。また同定された細菌に対して、どのような抗生剤が有効かを調べるため、感受性検査を行い、内服薬の検討を行う。
代表的な疾患
?外耳炎
水平、垂直耳道の上皮に炎症が起こった状態。
皮膚が赤くただれる、腫れる、耳垢が目立つ、悪臭、頭部を振る、後肢で耳を掻く、痛がるなどの症状がでる。
垂れ耳、長毛種、耳道内の毛が多い犬になりやすく、猫ではまれ。
原因はさまざまで、細菌や真菌の感染、寄生虫感染、アレルギー反応、腫瘍、異物の侵入などがある。アトピー性皮膚炎、アレルギーなどの基礎疾患を持っていることも多い。
治療は耳道の洗浄と点耳薬。特に炎症が強い場合は内服薬も併用する。
麺棒による耳道の洗浄は、行いすぎるとかえって耳道を傷つけ、炎症を悪化させる要因になるので注意が必要。
外部寄生虫
外耳炎を起こす外部寄生虫で、最も多くみられるのはミミヒゼンダニ。
感染が認められる場合、強いかゆみを訴えることが多い。
耳垢の顕微鏡検査で確定診断を行う。
犬、猫の外耳道に寄生するが、宿主を離れても数週間は生存可能なので完治後の再感染に注意する。また同居動物へ伝染する可能性もあるので注意。
?中耳炎、内耳炎
中耳や内耳にまで炎症が及んだ状態。外耳炎がなかなか改善しない場合、起こしている可能性がある。中耳炎の症状は外耳炎とほぼ同じだが、中耳付近を走行する神経に炎症が及ぶと、ホルネル症候群や顔面神経麻痺をおこすことがある。 内耳炎になると、斜傾、眼振、運動失調などの前庭障害が認められ、うまく歩く事が出来なくなったり、吐く事がある。
治療は内服薬。
?耳血腫
耳介軟骨の中に、血液が貯留し腫れる状態。
詳細な原因は不明だが、頻繁に耳を掻いたり、頭を振る、耳をぶつけるなどで耳介軟骨が骨折してしまい耳血腫になると言われている。 初期病変は耳介内側基部から始まり、先端に向かって拡大する。急速に出現し、頭をしきりに振るなどの不快感を訴える。適切に治療をすすめないと不自然な癒着をおこし、耳介が変形する。
治療をおこなっても再発が多い。外耳炎などの基礎疾患がある場合は同時に治療を行わないと再発の可能性が高くなる。 液体を抜き続けても治らない、変形させたくない場合は外科治療を行う。
?腫瘤
耳に発生する腫瘍として、良性の耳道内のポリープ、悪性の扁平上皮癌、耳垢腺癌があげられる。悪性の場合、取りきるためには耳介や耳道の切除も必要になる場合がある。切除の際には画像診断で範囲を決定する。扁平上皮癌は進行が早いので早期の判断が必要。
?自宅管理方法
?耳掃除
治療としても、治療後のケアとしても重要。
耳道皮膚に異常が認められない場合は、洗浄液を含ませた綿花で優しく汚れをふき取るのみで良い。綿棒を使用する場合は耳道内を鼓膜方向に擦らず、耳介方向に汚れを持ってるくるように使用する。綿棒は間違った使い方をすると鼓膜に汚れを詰めてしまったり、耳道を傷つけてしまう事があるので正しい使用方法を伝える。
耳道内に汚れがある場合は、洗浄液を直接耳の中に入れて垂直耳道を優しくマッサージして、顎を上に上げ液体ごと排出、または頭を振らせてもらい排出する。これを数回繰り返す。奥に塞栓している場合は、洗浄液を入れてから数分間そのまま待ち、軟らかくしてから除去していく。
正常な場合は可能な限り乾燥状態を保つようにし、自宅での耳掃除のしすぎや、誤った耳掃除の方法が疾患をおこさせたり、悪化させる場合がある事を伝え、正しい方法を指導する事が大切。また耳掃除を嫌がる子も多いので、疾患になってしまった時のことを考え、トレーニングを行っておくことも重要。
?点耳
治療のために点耳薬を処方されることは多い。方法をしっかり伝えないと治療がうまく行えないので注意が必要。
外耳道が垂直になるように耳介を上に向け保持し、点耳瓶の先端が直接指や皮膚につかないようにしながら、耳道内に必要量を滴下する。外耳道あたりの皮膚を上からマッサージし、あふれた薬液や耳垢をふき取る。この際耳介に出てきたものだけを拭き、外耳の中まで拭かないように注意する。
点耳後は耳を執拗に痒がっていないかを観察する。
耳の疾患の場合、痛みを伴っている場合が多いので周辺部位に手が触れるだけで嫌がり攻撃的になる事がある、その際は口輪等を利用するか、まずは他治療からはじめる。
耳の治療は疾患動物の性格や行動特性、家族のライフスタイルに合わせ、点耳薬などの自宅管理をしっかり行えるのか、通院治療の方が良いのかなどを考える必要がある。外耳炎などでは再発を繰り返す場合もあるので、適切な維持が出来るように説明をしていく必要がある。
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いかがでしたでしょうか。
耳科は多い疾患ですが学び直す機会の少ないところなので今回しっかり学び直すことができて良かったです。
点耳や洗浄方法など、お家でしている方法が不安な事もあると思います。
いつでもスタッフにお問い合わせください。
看護師 坂本恵