看護師セミナー21 脳・神経系

こんにちは。看護師の坂本です。
今回は脳や神経系ついてまとめております。
脳神経系と聞くと、難しい疾患のイメージが強いと思いますが、実はてんかんやヘルニアなど疾患も脳神経系疾患に含まれます。
脳や神経のことを少しでも詳しく理解できれば、症状にあった看護や初期症状を見逃さず治療に入ることができるので、今回勉強しまとめました。

以下内容
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脳、脊髄は局在性があり、症状から障害部位の推測が出来る場所であるので、問診の段階で、発作など緊急性の高い状態なのかなど、注意深く問診を行う事が重要になる。頭蓋内の異常は全身症状になったり、数週間内に命にかかわる事も多いので、状況の把握、説明をきちんと行えるように学んでおく必要がある。また麻痺や意識障害を起こしたり、重篤な合併症を引き起こす可能性もあるためしっかり知識を持って看護する事が求められます。確定診断や外科治療には特殊な機器や手技が必要になるため、どこまで可能なのかを知っておく必要があります。神経が過敏になっている事も多いので、触る時、保定の際には十分注意して触れるようにし、その患者がどの程度のストレスを抱えているのか組んで上げるようにします。
神経系は中枢神経系と末梢神経系に分けられる。中枢神経には脳と脊髄に分けられ、末梢神経は脳から繋がる脳神経や、脊髄から繋がる脊髄神経、交感神経や副交感神経が含まれる自律神経、体性神経などに分けられる。

中枢神経系:脳
脳は大脳、小脳、脳幹に分けられる。中でも脳幹は、間脳、中脳、橋、延髄に分けられる。脳と脊髄は3層の髄膜に覆われている。外側から硬膜、クモ膜、軟膜で、クモ膜と軟膜の間には脳脊髄液が流れる。脳脊髄液は脳や脊髄内を循環し、脳実質との物質交換や代謝物運搬をする。また、衝撃に備えクッションの役割をしている。動物により大きさが異なる。
大脳
脳の中で最も大きく、学習、知覚、認知、運動、感覚など高次機能に係る。大脳皮質がこれらを司っており、皮質の内側に髄質、その下に大脳基底核があり随意運動や急速眼球運動の調節に重要。人は大脳の機能局在(機能が特定の場所に配置されている場所)が100%わかっているが、動物は100%ではない。大脳にある、大脳辺縁系の海馬と呼ばれる場所が、脳組織の中で最も痙攣発作を生じやすい部位と言われている。
小脳
大脳の尾側に位置し、嗅覚以外の全ての感覚に関わっている。身体のバランスや姿勢の制御などにも係る。筋肉の動きの微調整などを行っているため、小脳を損傷すると身体が適切な動きができなくなり、運動失調になる。脳幹 間脳、中脳、橋、延髄、また視床下部も含む。視床下部は自律神経活動を調節し、その下部につながる下垂体とともに内分泌にも係る。脳幹は、呼吸、心臓、嚥下など生命に直接かかわる基本機能を維持する働きをしているため、損傷すると呼吸器系、循環器系が機能不全をおこし死に至る。末梢神経である脳神経の多くはここから生じている。

中枢神経系:脊髄
延髄から第7腰椎にある馬尾まで続く神経の束で、脊椎の中央を通る脊柱管の中にある。馬尾は脊髄ではなく、末梢神経の集合のこと。上から頸髄、胸髄、腰髄、仙髄、尾髄に分けられる。3層構造の内容は脳と同じ。脊髄の働きは、皮膚や深部組織、筋肉、内臓など各器官にある受容器から入った情報を脳に伝え、それに対し脳から出された指令を効果器に指令を出す。脊髄には椎骨間から出る31対の脊髄神経があり、脊髄神経の腹側に運動神経、背側に感覚神経となっている。脊椎の下方約4分の3の位置で終わり、そこからは馬尾となって髄腔に浮かび、馬尾は下肢の運動、感覚を伝える。

末梢神経:脳神経
脳から繋がっている、12対の神経。それぞれ固定された様々な役割がある。

末梢神経:脊髄神経
脊髄の各分節から左右1対ずつ、椎間孔を通って全身に分布する。頭に近い脊髄からは主に前肢に、尾に近い脊髄からは主に後肢に作用している。このため、脊髄のどの部分が損傷を受けると、どこに麻痺を生ずるのかを知ることが出来る。損傷を受けるとそこから下の脊髄には脳から指令が届かなくなるため、対応する部位に麻痺が生じる。損傷部位が頸部に近くなるほど、麻痺がおきる箇所が多くなる。

末梢神経:体性神経系
運動神経と感覚神経にわかれる。感覚器で得た情報と脳から伝えられた情報の伝達を行う。反射もこの神経の一部である。

末梢神経:自律神経系
不随意で行われている身体の機能に関わる。作用の違いにより、交感神経と副交感神経にわかれる。この2つは互いに拮抗する働きをしており、それぞれの神経が同一の器官に繋がっていて、その働きを調整している。

診断に必要な事

正確な問診
年齢、品種、いつから、急性、慢性、経過、悪化の有無、きっかけ、原因など。緊急度の判断や予想できる可能性の検査準備などを行う事が出来る。多くの疾患はここから予想する事が出来、獣医師はもちろんの事、動物看護師も予測する事は可能である。
一般身体検査
保定が非常に重要。痛みがある場合もあるので、安全に行う
神経学的検査
必要器具は鉗子、打診器、ライト。
意識状態
正常なのか、どちらかの反応が鈍い等があるのか、昏睡状態に陥っていないかなど。また意識、反応があっても眼振がある場合もあるので顔面神経の動き、偏りとともに判断する。沈鬱状態にある場合は家でもなのか、いつからなのかを確認する。
知性、行動
排泄の失敗、攻撃性など性格の変化、徘徊、咀嚼運動の変化、食欲の異常亢進、学習能力の低下、痴呆などがあげられる。これらは家族からの問診が重要になる。大脳など前脳、頭蓋内病変が疑われる。
姿勢、歩行
どちらかに傾斜したりふらつく、旋回などがないか確認する。歩行時には一定のリズムで真っすぐに歩けるかの確認。また頭の位置、尾の位置、名前を呼ばれた時に反応を示すかも重要になる。一見普通に見えても、体勢を変えると戻る事が出来なかったり反応が変わる場合もある。不全麻痺や完全麻痺の可能性もあり、他にも強い疼痛がある場合があるので注意して観察する。
不随意運動
律動的で規則的な身体の動揺(振戦)や遊泳運動、顔面の痙攣などの神経症状の有無。家で起こる場合は動画などを撮影してきてもらう。
触診
左右の対称性、緊張委縮状態、疼痛の有無の確認。
姿勢反応の評価
固有知覚反応(プロプリオセプション、CP):ナックリング、ペーパースライド。足の甲を反対にし床に置きすぐに正しい形に戻るか否か
踏み直り反応:触覚性、視覚性がある。触覚性は目を隠し足の甲に台が当たった時に自分で立とうとするか否か。視覚性は目を隠さない状態で同じ状況で立てるか否か。
跳び直り反応:後肢を浮かせた状態で前肢だけ台に乗せ、押して自分でしっかり前へ進むに合わせ交互に前肢を出せるか否か。また前肢後肢を逆にし同じ事を行う
立ち直り反応:床に寝かし自分で起き上がれるか否か(台の上だと落ちる可能性もあるので床で行う)逆立ちの状態にして前肢をちゃんと台に向けて出すか否か
四肢全てで姿勢反射の異常が認められれば脳疾患を強く示唆する。二つ以上異常であれば何らかの異常を疑う。前後肢同側の異常は同側の頸髄や脳幹の病変か、反対側の大脳病変の疑いがある。姿勢反応異常だけで部位の特定が出来るものではないが、異常をみつけ、領域の決定に重要な意味を持つ。神経系の異常か他の異常かを見るのに重要。
脊髄反射
膝蓋腱反射、ひっこめ反射、皮筋反射など様々な反射検査がある。打診器を使用し反射が行われるか診る。神経は上から抑制している。上位の中枢は下位の反射を常に抑制している。抑制している部分が壊れるとその下位は抑制が取れ反射の亢進をおこし、反射弓自体が壊れると反射が出来なくなり、麻痺または不全麻痺がおこる。
脳神経検査
総合的に判断するが、頭の中の病変を疑う時に行う。大脳の病変が疑われる場合は、意識、知能、知覚、聴覚、視覚に関わる神経の異常が出ている場合がある。脳幹の病変が疑われる場合は、意識障害、不全麻痺など脳神経の異常。小脳の病変が疑われる場合は、運動失調、歩行、前庭症状、瞳孔異常、頻尿などが異常な場合が多い。眼瞼反射や眼振、対光反射、開口、下の動き、嚥下など総合的に見て判断を行う。
深部痛覚
予後判定に非常に重要になる。他の刺激になってしまうので、最後に行う。爪の基部などの骨膜を鉗子などで強く持った時に、振りかえったり怒る、咬むなどの反応を示すか否か。ひっこめるだけでは反応したとは言えない。痛みを引き起こすので、随意運動が出来ている動物には行わない。不可逆的なことが多いので注意する。
その他
必要に応じて、脳脊髄液検査、CT検査、MRI検査などを行うがいずれも全身麻酔が必要となるためよく相談してから行う。

代表的疾患

椎間板ヘルニア
犬の椎間板疾患の66~86%。脊椎椎間板の髄核が突出することによって脊髄が圧迫され強い症状を出す。ダックスなど軟骨異栄養犬種に多発する。ハンセンⅠ型という3~6歳と若齢で急性発症するものと、ハンセンⅡ型という高齢犬で慢性発症するものにわかれる。また椎間板ヘルニアにはグレード分類がある。
Ⅰ:疼痛、知覚過敏
Ⅱ:歩様、姿勢の異常。自力歩行が可能な不全麻痺
Ⅲ:自力歩行が不可能な不全麻痺
Ⅳ:完全麻痺、排尿制御失調、深部痛覚有
Ⅴ:完全麻痺、排尿制御失調、深部痛覚無
このグレード分類により治療法や予後を判断する。安静、体重減量、疼痛管理、内科的治療と外科療法が選択になる。

進行性脊髄軟化症
虚血性の壊死を起こし、麻痺発生後1週間程度の経過で死に至る。呼吸障害の可能性もある。

てんかん
てんかんには様々な種類がある。てんかん、発作は問診が重要。タイミングや状況、いつか、また既往症など。戻るまでどのくらいかかり、どう終わったのか、撮れれば動画を撮ってもらう事が大切。

突発性てんかん
突発的に痙攣のような発作を起こし、それが反復して認められる状態。シェパード、ビーグルなどでは遺伝性が確認されている。多くは比較的若い時期6ヶ月~3歳に初発発作がおきる。意識が消失し1~2分間続く発作が特徴だが、不随意なふるえ、筋硬直を初期症状の特徴とすることもあるので要注意。
焦点性てんかん
呼びかけに反応しない、どこかを見つめている、刺激に反応しない、自動症などの症状があり、単純部分か、複雑部分かによって意識障害の有無が異なる。
特発性てんかん
発作を起こしうる原因が特定できないてんかん。ある程度若い段階、5歳までに初発。画像検査でも正常。純粋には遺伝子が関与する。
構造的てんかん
大脳の器質的原因が存在する。脳圧が上昇する。

脳炎
細菌感染性脳炎はまれでウイルス感染が多い。犬では自己免疫が示唆される。壊死性髄膜脳炎や肉芽腫性髄膜脳脊髄炎などがあるが、その他原因の特定できない脳炎も多く認められる。

変性性脊髄症
コ―ギーで発症が多い。疼痛のない慢性進行性脊髄変性で、後肢麻痺から前肢麻痺、呼吸筋麻痺にいたり亡くなる。遺伝子変異が報告されており、人のALSの家族性と類似している。10歳前後で発症が多く、1~3年で死に至る事が多い。

水頭症
犬で多い中枢奇形で先天性水頭症は脳疾患全体の5%と言われている。チワワ、小型犬に多発。脳室に脳脊髄液がたまり、脳室が大きくなることで脳圧が上昇しそれに伴い障害が認められる。頭位拡大、泉門の開存・拡大、眼球が左右腹外斜視、視力障害、発作、旋回などの行動異常、不全麻痺など様々な症状がある。脳圧を下げる薬物療法、または外科手術で治療を行う

馬尾症候群
大型犬での発症が多く、椎間板ヘルニアや椎体不安定症が馬尾部で発症する。シェパード、ラブラドールなど特に5歳以上での発症が多い。伏臥位からの立ち上がりが遅くなり、走るや階段を登る事を嫌がるようになる。後肢の跛行やふらつきが悪化したり、重症化すると排尿、排泄機能異常が生じる。厳密な運動制限や鎮痛薬、抗炎症薬により症状の改善が見られる事もあるが、再燃する事も多い。外科手術も選択肢の一つ。

リハビリテーション
運動障害をおこす事のある脳神経系疾患においてリハビリは非常に重要なものとなる。基本的には術後1日目からリハビリを始め、同じ看護師が行う。必ず獣医師の指示を仰ぎながら状態を見ながら進める。術後1~3日目までを目安に、1日2回アイシングを行い起立位保持やサイクリング運動、足裏刺激等を合わせて行う。いずれも患部に負担をかけないで行う事が必須でやりすぎには注意する。リハビリテーションは毎日の積み重ねが大切であるので、獣医師、動物看護師だけが必死になっても上手くいきません。動物、飼い主が一緒になって出来るよう、無理のないプログラムを計画し、途中経過を把握し評価してモチベーションを維持できるよう行う必要がある。

抗てんかん薬について
年単位の継続治療が必要になり、基本的には生涯投与になることが多い。投薬による副作用がおこる場合があるので、定期的な検査が必要。様々な種類の抗てんかん薬があり、組み合わせて使用する事もあるが、効果には個体差があるので、必ずしも投薬開始により全ての発作がなくなるわけではない。

 

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いかがでしたでしょうか。

脳神経系は、疾患の初期症状や経過、予後も多岐にわたるので、疾患についてすべてがまとめられたわけではありませんが
少しでも参考になればと思います。
検査内容、検査の意味などを理解しきちんとした看護を全員で行えるようにしていきたいです。

看護師 坂本恵

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