当院では分子標的療法薬(パラディア錠)によるガン治療を行っております。
分子標的療法薬とは
がん細胞は、増殖に必要な物質を動物の体から取り込んでいます。必要な物質の取り組み口はRTK(受容体型チロシンキナーゼ)と呼ばれています。RTKには、例えると電源スイッチのようなものがあり、スイッチが入ると、必要な物質を取り込んでいくような構造をしています。がん細胞の表面やその周辺にはRTKが多く分布しています。分子標的療法薬は、従来の抗がん剤のように、がん細胞を直接攻撃(結果的には正常細胞の攻撃してしまう)するのではなく、RTKの電源のスイッチをふさぐ事で、がん細胞が増殖に必要な物質の取り込みを阻止する事で癌と戦う治療薬です。
従来の抗がん剤治療の特徴
これまでの抗がん剤は、がん細胞の増殖を直接阻害する事で癌と戦う事を目的とした治療薬でした。
がん細胞の増殖を抑えるために、がん細胞のDNA合成や分裂を薬剤(抗がん剤)で直接阻害するという方法です。しかし、増殖の盛んな正常細胞(骨髄細胞や、腸管の細胞)にも害を与えてしまうため、副作用も多いという大きな欠点を有していました。
分子標的療法薬の利点
上記のように、直接細胞を攻撃する薬剤ではないため、従来の抗がん剤と比較して副作用が少ないという特徴を有しています。また、経口薬で自宅での治療が可能です。
分子標的療法薬の欠点
中長期的な使用での耐性や、従来の抗がん剤同様に体質に合わない場合もあります。また、分子標的療法薬の歴史は人の医療を含めてまだ浅く、従来の抗がん剤と比較して副作用の予測がつかない場合もあります。
分子標的薬で効果が期待できる腫瘍
分子標的薬の使用にあたっては、その他の標準的治療でより効果的な治療が適応可能な場合は、そちらを優先させることが推奨されています。下記課題により2018年現時点においては、第一選択薬としてはまだ考えるのは早いという見方が多いです。
・肥満細胞腫
・GIST(消化管の腫瘍)
・肛門嚢腺癌
・甲状腺癌
・口腔内の扁平上皮癌
・鼻腔内癌
・頭頸部癌
・心基底部腫瘍(血管肉腫は除く)
(薬剤の有効性には個体差が比較的強くでます)
分子標的療法薬の課題
分子標的療法薬による治療は外科手術、抗がん剤、放射線療法に続き、第4の癌治療として確立された治療法(がん免疫療法)です。2000年以降、加速度的に発展し、今や人医領域で開発される新規抗がん治療薬のおよそ9割を占め、その効果が期待されている分野です。しかし同時に、まだまだ新しい分野の治療のため、その効果メカニズムや副作用が解明されていない部分があります。そのため従来の癌治療同様に万能な治療ではありません。ただし、これまでは諦めないとならない病態に対しても有効性が示されたり、従来の抗がん剤と比較すると副作用は明らかに少ないという特性が最大の特徴です。
その他
耐性について
使用を続ける事で耐性を示し、効果が認められなくなる場合があります。
長期毒性について
平均6ヶ月程度で、副作用による投与中止が必要となる場合があります。
放射線療法との相性
放射線障害を助長する可能性があり、放射線療法との併用には注意が必要です。
ご使用にあたりご自宅での注意点
およそ90%が糞便中、10%が尿中排泄の薬剤です。代謝物が有害な作用を示すデータはないものの、無害であるというデータもないため、糞尿の取り扱いはご注意下さい。素手等についてしまった場合には十分な流水で洗浄してください。妊娠または授乳中の飼い主様におかれましては胎児にとって有害となる可能性がありますので、特に注意が必要です。
分子標的薬の主な副作用と対処法
食欲不振:2日間以上にわたって摂取量が50%未満であった場合
→摂取量が回復するまで投与を中断し、回復後、投与量を0.5mg/kg減量し再開。
嘔吐や下痢:1日4回未満で2日以上続いた場合
→吐き気止めや下痢止めの服用で対処します。
嘔吐や下痢:1日4回以上で2日以上続いた場合
→嘔吐や下痢が正常化するまで投与を中断し、回復後、投与量を0.5mg/kg減量し再開。
消化管出血:鮮血便または黒いタール状弁が2日以上続く、または明らかな出血。
→回復するまで投与を中断し対症療法を実施。回復後、投与量を0.5mg/kg減量し再開。
低アルブミン血症:アルブミンが1.5g/dL以下の場合
→値が1.5g/dLを超えるまで投与を中断し、回復後、投与量を0.5mg/kg減量し再開。
好中球減少症:好中球数が1000/μL以上の場合
→同一投与量を継続。
好中球減少症:好中球数が1000/μL 以下または好中球減少症発熱、感染症の場合
→値が1000/μLを超え、臨床徴候が正常化するまで投与を中断し、回復後、投与量を0.5mg/kg減
量し再開。
貧血:ヘマトクリットが27%以上の場合
→同一投与量を継続。
貧血:ヘマトクリットが26%以下の場合
→値が26%を超えるまで投与を中断し、回復後、投与量を0.5mg/kg減量し再開。
肝毒性:ALT、ASTが正常範囲上限値の1~3倍内の場合
→同一投与量を継続。
肝毒性:ALT、ASTが正常範囲上限値の3倍を超えている場合
→値が上限値の3倍以下となるまで投与を中断し、回復後、投与量を0.5mg/kg減量し再開。
腎臓毒性:正常範囲上限の1.25倍未満の場合
同一投与量で継続
腎臓毒性:正常範囲上限の1.25倍以上の場合
正常範囲上限1.25倍未満となるまで休薬し、回復後、投与量を0.5mg/kg減量し再開。