前庭疾患

2010年3月23日

首が傾いた状態(斜頚)から戻らなくなり、旋回運動や眼振などの特徴的な症状を示す疾患を前庭疾患と言います。前庭疾患のその他の症状には、嘔吐や涎、起立不能などの症状も認められる事から、他の疾患との鑑別も重要となる疾患です。

前庭疾患の原因
中枢性(脳)と末梢性に分けられます。代表的な原因には以下が挙げられます。

○中枢性前庭疾患
・脳の外傷や出血
・細菌感染
・肉芽腫性髄膜脳炎
・脳腫瘍
・脳梗塞

○抹消性髄膜脳炎
・内耳炎/中耳炎
・内耳の腫瘍
・先天性前庭症候群
・老犬性前庭疾患(高齢犬における最も一般的な原因)
・アミノグリコシド系抗生剤の耳毒性
・その他

前庭疾患の鑑別
これらの鑑別には身体検査に加えて、レントゲンや血液検査、必要に応じて脳のMRI検査などを用いて鑑別する必要があり、原因によって予後が大きく変わるため注意深い診察が必要となります。身体検査での鑑別方法には以下のような方法が挙げれます。

○中枢性前庭疾患
・眼振は水平性、垂直性、回転性のどの方向にも起こる。
・頭の向きを変えると眼振の方向が変わることがある。
・前肢や後肢の神経学的異常を伴うことがある。

○抹消性前庭疾患
・眼振は水平性もしくは回転性
・頭の向きを変えても眼振の方向は変わらない。
・前肢や後肢の神経学的異常は通常認められない。
・ホルネル症候群(外観的には眼の瞬膜の異常)の併発。

※?上記の身体学的所見は絶対的なものではないので鑑別には注意が必要です。

前庭疾患の治療
原因により異なります。感染性が疑われた場合には抗生物質、炎症性が疑われた場合には抗炎症剤の投与が必要となります。腫瘍が疑われた場合には、発症している症状に対しての注意深い検査および治療計画を立てる必要がありますが、完治が難しい状況が多いとされています。

前庭疾患はとつぜん発症することも多く、進行性に悪くなる場合があります。治療方針の決定には細心の注意が必要な疾患です。
DSCF9770111写真は治療開始7日目のモモちゃん。

治療前は、首が大きく傾き、眼振や起立困難などの症状が出ていました。
治療開始7日目に、わずかな首の傾きが残るものの、眼振も治まり、自力で歩いて診察に来てくれました。
『モモちゃん、良かったね!』

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