口腔内腫瘍

2015年2月7日

口腔内に発生する腫瘍は、一般的に悪性の比率が高いとされ、また、顔面の変形や、食べたくても食べられないという臨床症状により、QOLの極端な低下をおこす腫瘍疾患の一つであると考えられます。また、口腔内腫瘍に対する最も有効な治療方法である外科手術は、術後の外貌の変化や、発生部位によっては完全な切除が困難であるといった特徴があるため、治療をする側の獣医師としても、治療を受けるかを判断する飼い主としても、治療方針の決定に非常に苦慮をする疾患の一つであると思います。

犬の口腔内腫瘍の発生率は比較的多く、全腫瘍のおよそ6%程度と報告されています。また、発生する腫瘍の6~7割で悪性とされています。一方、猫での発生率はおよそ3%とされ、悪性度は犬と同程度と考えられます。

口腔内に発生する腫瘍の種類
犬:悪性腫瘍である悪性黒色腫、扁平上皮癌、線維肉腫の3種類が多く報告されています。
猫:扁平上皮癌が全体の6割を占め、ついで線維肉腫、歯肉腫が多く報告されています。

口腔内腫瘍の症状
歯ぐきや頬の内側に偶発的にシコリが見つかることから始まり、初期には間欠的な出血や口腔内の匂いの変化などが生じます。
シコリが大きくなるに合わせて、出血量の増加や採食障害、呼吸障害などの合併症が認められるようになります。

口腔内腫瘍の診断
視診により腫瘍の可能性を疑います。レントゲンやCT検査、バイオプシー(生検)などの検査を組み合わせることで確定診断を行い、治療方針の決定を行います。

口腔内腫瘍の治療
一般的に口腔内に発生する悪性腫瘍の場合、局所浸潤性の強いものや、転移率の高いものが多く含まれるため、外科手術による摘出後、放射線療法や化学療法の併用が推奨されています。しかしながら、外科的摘出が不可能であったり、外貌の著しい変化が予想されるため手術を断念する場合も多くあります。また、高齢で発生した場合、麻酔のリスクにより手術そのものを諦めざるおえない場合もあります。治療によるメリットとデメリットや、積極的治療を選択しないという選択肢も含めて、たくさんのことを相談しながら治療方針を決定する必要があります。

手術の実際
口腔内腫瘍は、その発生部位によって外科手術での切除方法が異なります。ここでは下顎に発生した腫瘍に対する両側吻側切除術を示していています。本術式の場合、外貌の変化が少なく、また犬の場合、食事や飲水にほとんど影響が出ないという特徴があります。
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下顎骨内にも浸潤を示していた今回の手術では、病巣部を確実に含むように下顎骨の切除が必要となります。切除後は、採食に影響が出ずらいような再建が重要です。
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術後すぐの外貌です。上顎と比較して下顎が切除によって短くなっています。
手術の翌日には食事を開始します。
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術後一週間での外貌です。
外貌の変化は少なく、食事や飲水を正常に行うことができています。
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口腔内に発生する腫瘍は、悪性の比率が高く、かつ外貌の変化を生じ得る治療選択となってしまうこともあり、治療方針の決定には苦慮することが多い疾患の一つです。また、高齢で発生した場合には、麻酔のリスクも加わります。積極的な治療を選択するにしても、保存的な治療の選択しても、いずれにしても採食や飲水の問題、局所再発や転移の問題が含まれます。治療方針の決定には大きな精神的ストレスも伴います。様々な選択肢の中から、いろいろな事を想定しながら、慎重に治療方針の決定をすることが大切と思います。

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