狼瘡様爪床炎

2010年12月16日

愛犬や愛猫が、自分の足先を頻繁に噛んだり舐めたりする場合には、痒みや痛み、ストレスなどが主な原因として考えられます。
爪を噛むクセはもともとあったけど、最近、自分で爪を噛んで引き抜いてしまうようになったという症状で来院したMダックスのテンちゃん。既に出血は止まっていたものの、爪は抜け落ち、爪の血管部分(爪床)が露出し、痛みがある状態です。しかも、噛んで引き抜いてしまう爪は一本では留まらず、次々と引き抜いてしまいます。

一般的に動物が手先を頻繁に噛む場合には以下のような事が考えられます。
 ○爪が伸びすぎている
 ○足先の皮膚の炎症(アレルギー、感染症、しもやけ)
 ○足先の外傷(擦過傷、木片やクギなどによる刺傷)
 ○足先の痛み(骨折、関節炎、腫瘍)
 ○ストレス(代償行動、発散)
 ○習慣(何からの原因で始まった症状が習慣化)

これらの症状に対しては、以下のように段階的なプロセスで診断を進めていきます。
①爪の過長、手足の外傷の確認
②皮膚の炎症に対する内科療法
       
③改善が認められなければ、感染症の検査、骨折や関節炎に対するレントゲン検査
④習慣化しているために改善しない可能性を除外するため、エリザベスカラーの装着
       
⑤改善が認められなければアレルギーやストレス源の検討、改善
       
⑥改善が認められなければ、爪で起こっている現象の診断のために病理組織検査

テンちゃんの場合、⑤までの流れでも診断はつかず、全身麻酔下で爪と爪床の病理検査が実施されました。

病理診断名:狼瘡様爪床炎(ろうそうようそうしょうえん)
狼瘡様爪床炎とは、明らかな原因は不明ではあるものの、様々な要因の関与による自己免疫疾患の可能性が示唆されています。主な要因として、食べ物や薬物、ワクチンなどに対するアレルギー反応遺伝基礎疾患などがあげられますが、多くの場合で、原因の特定ができません。若齢~中齢に好発し、通常、一つの爪から発症して約2~10週間でほぼ全ての爪が罹患するとされています。爪の脱落後は、生えては抜けてを繰り返します。

狼瘡様爪床炎の症状
一般的には爪以外に症状が出ることはないものの、約50%で強い痛みや破行が認められ、約50%で二次的な細菌感染症の併発が起こります。

狼瘡様爪床炎の治療
まずは、血液検査、尿検査、抗核抗体検査(自己免疫疾患の診断)を実施して、基礎疾患に関する精査を行います。基礎疾患が発見されれば、その治療を行います。次に、フード変更歴や薬物投与歴を調べ出して、発症時に関連が疑われたものを全て除外します。基礎疾患が見つからず、関連が疑われたものを全て除外した後でも、治療に反応しない場合には、ステロイドホルモンに代表される免疫抑制剤の使用が適応となります。免疫抑制剤に対する反応は比較的良好であるものの、多くの症例で治療中止により再発が認められ、長期的な管理が必要になる疾患といわれています。

実際の写真
爪が爪床(血管部分)の部分から、鞘のように抜けている写真です。既に血液
などは除去されていますが、強い痛みがある状態です。
DSCF02754

この疾患の病態は以下のように説明されています。

①通常の爪の構造:爪床と呼ばれる血管がある芯の部分と、鞘状に伸びる
爪の部分に分かれています。
無題

②様々な要因の関与により、自分自身の免疫細胞が、自分自身の爪床を
攻撃し始めます。自分自身の免疫細胞が自分自身の細胞を攻撃することを
自己免疫疾患と呼びます。
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③最終的には、爪床と爪の結合が剥がされ、爪が脱落します。実際の写真
では、この状態の爪が示されています。
無題 3

テンちゃんの場合、およそ2ヶ月の投薬を実施しています。投薬7日目くらいから爪を齧るのが減り始め、投薬10日目以降には爪の脱落が止まりました。現在、治療中止からおよそ2ヶ月が経過しています。現段階では、再発は認められず、非常に元気でいてくれています。あとは、再発がないことを祈るばかりです!

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