看護師セミナー5 概論③

こんにちは。看護師の坂本です。
長くなっておりますが、今回で概論の最終です。
今回は高齢犬の事について、なりやすい疾患や注意点、介護についてや終末期といわれる最期のかかわり方についてです。動物たちとの最期は何年経っても全く慣れないもので、いつも何ができるだろう、何ができただろうと思ってしまいます。
お家での関わり方、看護師としての関わり方を学びまとめましたので
今健康な子たちも、これから新しくむかえる方も長文で読み辛いとは思いますが何となくでも心に入れておいていただければなと思います。

 

以下内容
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動物の高齢化
近年犬猫の飼育頭数に対して、老齢動物の割合が高くなっている。少し前の資料だが、犬の約40%、猫の約32%が7歳以上で高齢犬と言われる年齢である。
動物医療や予防技術の発展、薬剤の開発などの多くの条件により平均寿命が延びたり、病気の管理が出来るようになり高齢の動物が多くなっており、動物の高齢化が進むと共に、高齢動物の介護や病気治療などの家族の悩みも増えている。高齢になるにつれ看護や介護の必要性が増えてくるので必要知識も増える。今回は褥瘡管理や必ず対面する死との向き合い方、看護を学ぶ。

褥瘡の発生原因・防止策
褥瘡は組織に物理的な負荷が持続してかかり続け組織の血行が阻害されるとなり、その負荷の大きさと持続する時間によって発生するか否かが決まる。よって大きな負荷がかかっていても、時間が短かければ褥瘡になる事は少なく、小さな負荷でも長時間かかり続けた場合は褥瘡になる事がある。褥瘡が出来やすい場所は、腸骨,肩甲骨, 肘,膝,頭蓋骨眼瞼上など外から触って骨が出っ張って触れる所である。骨により内側から皮膚が押され、床と骨で皮膚の血行が悪くなりおこりやすい。寝返りを打てない子が、長時間同じ体勢で寝ている状況で同じ所に負荷がかかり続けると起こるので、体勢を変えてあげたり、クッションなどで負荷のかかる場所を変え続けたり、ウォーターベットや褥瘡防止用のマットに寝かせることで防ぐ事が出来るものもある。

 褥瘡管理の基礎管理知識
・消毒剤による組織障害を防ぐため、傷は消毒液で消毒してはいけない。感染が起こりうる状況の場合は生理食塩水で洗浄消毒を行う。生食がない場合は水道水で可。

・傷口を乾かさない。傷に乾いたガーゼなどをあてることで乾燥してしまい、壊死組織が生じる。ドレッシング材で保護しでてくる液体を受け止めながら治す。家で管理をする場合は、薬局などで売っている人用のドレッシング材を使用するか、 台所で使用する穴あきのビニールにペットシーツや軟らかい布,ガーゼなど吸水性のある物を入れ傷の上にのせ固定する。本来は病院のドレッシング材のように滲出液も利用し治していくことが好ましいが、家で管理する場合には感染のリスクも高くなるのである程度吸水も必要になる。ガーゼ自体を傷口に固着してしまうと、ガーゼ交換時に壊死組織だけではなく、治そうとしていた肉芽組織や細胞も一緒にはがしてしまう事になるので注意。
疼痛
高齢になると関節痛等の疼痛を訴える事も増えてくる。だが、動物は疼痛をそのまま素直に訴えてくることは少なく、私たちが組んであげる必要がある。 たとえば、老齢期になり痴呆と呼ばれる様々な症状が出てくる中の代表的なものとして夜鳴きがあるが、本当に痴呆で夜鳴きをしている場合と夜になると関節が痛んだり、同じ体勢でいる事により痛んだりしている場合がある。この疼痛による夜鳴きは疼痛管理でおさめてあげる事が出来る。このように高齢になると病気か加齢による変化か判別が難しい事がある。動物看護師はこの様々な変化を見逃すことなく、上手に表現出来ない動物の痛みなど他疾患を読み取ってあげられるようになるべきである。
疼痛の管理方法としては、消炎鎮痛剤などの投薬による疼痛管理とマッサージや冷却または温熱療法のように原因の根本解決にはならないが緩和することが出来る方法がある。疾患の内容により異なるが一般的には、急性の傷(断脚後3日間など)に対しては冷却しなるべく炎症の進み方を緩慢にする、慢性の傷に対しては温熱で緩和するといわれている。

浮腫
ずっと同じ体勢でいたり、疾患により血流が滞ると浮腫と呼ばれる主に末端部のむくみが出ることがある。動物が浮腫自体について訴えてくることは少ないが、違和感がある事で表情や態度、鳴き声がかわる事がある。浮腫に対しては疾患の縮小などのために投薬を行うか、原因の排除ではなく浮腫を緩和するためにマッサージを行う。
この浮腫緩和のマッサージには特別な方法や力は必要なく、四肢の指先、末端部から上へ向かうように触ったり握ってあげたりするだけでも効果的。
疾患
高齢犬で一般的に起こりやすい疾患は、心血管疾患、歯科関連疾患、貧血、肝臓疾患、 関節炎、腫瘍疾患、甲状腺や副腎のホルモン疾患、泌尿器疾患など様々なものがある。
これらのいずれかが起こる場合もあれば、ほぼ全てを網羅するように次々起こりうる場合もある。また若い時には疑う必要がなかった疾患を考えなければいけないので、診断には注意が必要である。またその看護をするにあたり必要知識を学んでおくべき。

歩き続けてもらうために
高齢になった動物が必ず歩けなく寝たきりの介護が必要になるわけではない。そのためには高齢になってからどのくらい歩かせてあげられるかが重要になってくる。高齢になるにつれ、代謝量が落ち脂肪量の増加から体重過多の子が増えていく。体重過多により肥満と呼ばれる状態になると、関節にかかる負荷が増え関節炎を起こし疼痛により、運動量の低下や炎症を抑えるために運動制限が必要になりさらに筋力を低下させてしまう。これが寝たきり状態で歩けなくなっていく一つの原因である。
ただ、ダイエットのためいきなり過剰な運動を始めると関節の負荷が強くなるのでその動物に合わせ、ほどほどからゆっくりはじめていくことがポイントとなる。
また、加齢につれて若い時と全く同じ行動を行う事は困難になってくる。段差が苦手になる場合にはスロープを用意してあげたり、床にお皿を置いて食事をしている場合、小さなテーブルに置くなど少し高くしてあげると首の関節にかかる負荷が減るなど小さなサポートが必要になる。

最期の関わり
亡くなる瞬間はその子によって様々で、飼い主さんの考え方にもよるので必ずしなければいけない事はない。辛い状況でも最期まで自分の力でお家でと言う方や、辛い状態を診ているのが苦しいから最期の時は病院などでみていない時に、誰かと一緒の状況で、苦しませたくないので安楽死で、など様々な考え方がある。最期の時をどのように過ごしどのように迎えるのか、きちんと話を聴き望む形をかなえてあげる事が動物看護師のできる事である。また飼い主が最期の時の迎え方を考えるように、動物自身も最期の瞬間を自分で考える事もある。大好きな人たちに見守られ、出来るだけ多くの人がいる状況で沢山名前を呼んでもらい、ありがとうの声に包まれながら逝く場合。大好きな人たちを悲しませないために、みんなが寝ていたり、留守にしている時離れた環境に居る時に逝く場合など。飼い主さんが望まない形でのお別れが来る事になっても、その子の意志として理解している動物看護師がその時の状況、考えうる可能性を飼い主さんに伝えてあげる事も重要な役割である。

安楽死も最期の選択肢として望まれる事がある。安楽死は獣医師や動物看護師が独断では決断出来ないし無理にすすめる事も絶対にしてはいけない。あくまで選択肢であり、最終決定権は飼い主さんにある。飼い主さんとその子のQOL両方を考え、今後の疾患の展望、予想を具体的に提示したうえでしっかり考えてから決断してもらう。
介護は飼い主さんに肉体的にも、精神的にも負担を強いる。その上、介護動物が反発するとさらに強いストレスがかかる、その状態では正常な判断が出来ずに、安楽死後後悔と安堵の両方が押し寄せる事があることも忘れてはならない。
安楽死を選択され実行する際には、細心の注意を払わなければいけない。立会いを希望されるのか、立ち合わないのかを話し合い、同意のもと行う。安楽死は苦しまずに逝かせてあげる人が出来る唯一の方法である。静脈確保をしっかり行い、薬液の漏れがない事を確認してから、使用薬剤をゆっくり注射していく。眠っているように安らかに逝くので、聴診などをしっかり行い最終判断を怠らないようにする。

動物との別れ,最期
死は誰にでも、どんな動物にも必ず訪れる事。細胞は生まれた時から、死を迎える時が決められている。今の楽しい穏やかな時は永遠ではありません。この限られた時間をいかにより良く過ごすかを考えて一緒に生きてあげる事が動物達の幸せに繋がる。 愛するものを失うと言う事は、傷が深く心をえぐり、痛手となってながく残る。苦痛や怒り、悲しみ、罪悪感が人の心を襲っている事が多い。
動物を亡くした悲しみを、誰も理解してくれないという思いや、過小評価されるのではないかと思い、語るのを恥じたり恐れたりして誰にも言えない苦痛。死によって引き起こされた自分の悲しみを周りはもちろん、自分も受け入れる事が出来ず、それに対する具体的な解決方法が分からずそのまま過ごしていくと、自分や周りを責め続け、身体的な異常や苦悩を抱え、現実が認められなくなる。というペットロスの状態が数年にわたり続いてしまう事がある。生活を共に過ごしてきた愛する子の喪失は、飼い主の生活にぽっかりと穴があいた状態になる。そこに居ないという物理的な穴から,毎日のスケジュール,日頃の思考パターンの穴など色んな状況でその穴を感じる。代われるものがないのだから、穴を完全に埋める事は不可能なのに埋めなければならないという焦燥感にも襲われる。
この様々な感情をきちんと理解した動物看護師は悲しみから立ち直るサポートをする事が出来る。悲しみから立ち直る妙薬はなく、一生忘れる事は出来ない。穴は埋める事は出来ないが普通の感情の状態へ前進した時、その穴は楽しかった思い出に変わる事が出来る。そのためには、悲しい感情を恥ずかしいと思わず受け止め、沢山愛する子を想って泣いてあげる事が必要で重要。
動物看護師として出来る事は、多くはない。だが、その時に一緒にいる、いつもの場所にいる、心の支えになる事、動物が好きで、愛する子を亡くした悲しみで泣いたり辛い思いをしているという事を恥ずかしいと思わせない環境を作る事は出来る。反対に、絶対に口先だけで慰めたり、後から非難する事はしてはいけない。どのような行為も、強制すべきではないし、励まし続けるをあきらめてはいけない。悲しみから立ち直れない、日常に戻れないと思う悲しみは沼地のようで、地図のない砂漠のような状態でさまよっている飼い主さんを動物看護師が地図になり、簡単ではないので急がなくても良いが、日常に戻り生活している人々もいるという事をさし示してあげる。いつか戻れるので、急がず悲しんであげられる状態を自分で認めてあげるように伝えてあげる。辛い気持ちを理解してあげる。 辛い気持ちを一人で抱えている事が一番苦しい事なので、一人で抱えなくて良い、理解しようとしている人がいる事を伝えてあげる事も必要。

 

最期の電話、言葉
最期を家で看取った場合、または突然亡くした場合、飼い主さんから電話で病院にお知らせが届く事がある。飼い主さんは、愛する子が亡くなった事実をどう伝えるか、どのタイミングで伝えるのが一番良いのか、迷惑にならないのかなど、一番悲しい時期に沢山の事を考えてきてくれる。その想いがある事を理解した上で、電話対応や言葉を受け取るべきである。お返しでかける言葉は、その子の状況やその子への沢山の想いを考えると、一概には決められない。その子を想い、伝えたいと想う言葉をかけてあげる事が一番である。その中でも、病院ごとに必ずかけてあげたい言葉、伝えたいことがあると思う。全ての人がそれを理解しておくことが必要である。

 

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いかがでしたでしょうか。
長文で読み辛くなってしまってすみません。
介護をする、高齢になるということはすべての子ができることではありません。
辛いこともあると思いますが、介護をするところまで一緒にいてくれる子たちと毎日に感謝して無理せず付き合っていける方法を一緒に探していければと思います。

看護師 坂本恵