看護師セミナー6 口腔学Ⅱ

こんにちは。看護師の坂本です。
今回は口腔学Ⅱです。
前回のⅠから少し空いてしまいましたが、今回は前回の続きとして具体的な疾患の病態や、歯磨きの慣らし方を簡単にまとめました。
前回の専門的な用語説明よりは少しわかりやすいかなと思います。

 

以下内容
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口腔学Ⅱ

口腔疾患診察時に必要な観察ポイント
口腔内の疾患は発症した初期には気付かれずに進行してから症状を表わし気付かれる事が多い。口腔内を見たくても、顔周りを触られる事を嫌がる子が非常に多く、病院で身体検査時にはじめて気付かれる事もある。
口腔内疾患が悪化すると、顔が左右不対称に腫れたり、口唇や眼下、頬部が腫れ自壊したり、顔を触るのを今まで以上に嫌がったり、触ると痛そうに鳴く、片側性の鼻出血、下顎のリンパ等が腫れる、口臭の悪化(全身性疾患,消化器疾患や腎臓などが原因の場合もあるので注意)、顔の周りの毛や前肢の脱毛(顔を気にしているが舐めれないので舐めやすい前肢を脱毛させてしまう)などの症状がみられる。これらは一つだけの場合もあれば複数の症状の場合もある。
口腔内の疾患はわかりやすい症状のものから、本当に口腔内だけが原因なのか判りづらい症状もあるので、診察時には注意が必要である。

歯周病とは
歯周病とは歯の表面で細菌が毒素を産生し、歯肉や骨に炎症を起こした状態の事を言い、気付かれていないだけで、3歳以上の犬の約80%に見られている疾患と言われる。歯周病のはじまりは、菌膜と呼ばれる歯垢のもとで、菌膜が付着して24時間経つと歯垢になり、その歯垢が2~3日経つと歯石に変化する。この菌膜、歯垢は歯磨きなど人の手、日常管理で崩し歯石になる事を予防する事が出来るが、歯石は歯磨きなどでは取る事ができない。この歯石があることで炎症が更にすすみ、歯肉炎、歯周炎が合わさって、歯周病となっていく。

歯石は放置すると更に細菌を表面に集め大きくなっていき、歯周ポケットから体内へ細菌の侵入を許してしまう。腎臓に細菌が入ってしまい尿毒症を引き起こしたり、心臓の弁に細菌が付着し循環器疾患を引き起こしたりする可能性があると言われている。歯垢、歯石は大型犬より、小型犬の方が付きやすい。

歯周ポケットの拡大、歯の動揺などの原因となり歯が脱落してしまう。通常歯が脱落すると歯周炎は消退するが、それまでの間に上記のような様々な症状を起こす。重度の炎症の進行により、上顎骨が破壊され口腔と鼻道にトンネルが出来て繋がってしまう口鼻ろう管と言う状態になってしまったり、下顎骨骨折する事もある。

他の代表的な口腔疾患
乳歯遺残
永久歯が生えてきても乳歯が残ってしまっている状態の事。不正咬合の原因となったり、重なり合った箇所に歯垢がたまりやすく歯周炎の原因になりやすい。
欠歯
あるべきはずの場所に歯が欠如している事。埋没している事もある。
不正咬合
上下のかみ合わせが異常な状態。正常な状態の子より歯垢や歯石が溜まりやすく歯周炎をおこしやすい。
歯の損傷
 折れて神経が出てしまっている場合には感染を防ぐため抜歯が必要な場合もある。
猫の歯肉口内炎
猫に見られる歯肉および口腔粘膜の慢性炎症疾患。ウイルス感染との関連もあるが、これとは関係なく発症する場合もある。
う蝕
虫歯のこと。犬猫は虫歯がないと言われ続けていたが、虫歯をおこす菌が、人との過剰な触れ合いや、人の食べ物、炭水化物,甘いものなどを食べることにより虫歯になる子が増えてきていると言われている。

全身麻酔下での歯石除去処置
①  視診
口腔内をしっかりと視診した上ではじめる。口腔内処置を行う際はどのような処置においても消毒,洗浄を行うべき

②  スケーリング
超音波スケーラーで歯の表面、裏面、歯間を丁寧に磨く軽く羽を撫でるようにスケーラーを動かし歯石を除去していく。強く当ててしまうと超音波の振動が止まってしまうのできちんと歯石が取れなく時間がかかってしまう。

③  抜歯

④  ルートプレイニング、ポリッシング
歯根部,歯の表面を滑らかに研磨し歯垢を沈着しにくくする。これで菌膜も除去できるので歯石の土台を完全に排除出来る。研磨の際は2種類の粒子を使用し、より滑らかになるように丁寧に研磨する。

⑤  洗浄
口腔内には多くの雑菌が常在しているので、麻酔下の動物の眼に眼軟膏を事前に入れるなどの対策をし、処置する人も自らの顔面などに水がかからないように注意する。動物の顔周りが濡れてしまうため、蒸しタオルなどで綺麗に拭き取り乾燥させてあげる。目には見えない無数の雑菌が飛び散っている事を念頭に入れ手術室の清掃、消毒をする。
覚醒後は抜歯の縫合部を気にして前肢や床で擦ったりしないように、エリザベスカラーの装着をお勧めする。(気にしない子もいるので飼い主さんと相談する。)抜歯して縫合した場合、完全に癒合するまでの2週間は硬いフードや硬いおもちゃを避けてもらうように指示する。また縫合周囲は2週間は歯磨きを避ける。しかし、ホームケアを怠るとまた歯垢歯石が付着してしまうので、他の歯だけにするか、または液体タイプやデンタルジェルでの管理を行うかの相談をする。歯の破損があった場合は、同じおもちゃなどを与えないようにしてもらう。抜歯縫合部位が多い場合は、抗生物質の処方、場合によっては鎮痛消炎剤の処方も検討する。器具の片づけ方法としては、水のみで洗浄するもの、洗剤を使用出来るもの、アルコールの消毒でおこなうものなど様々な方法があり、機械機材によってわけなければいけないものがあるので注意する。

歯磨きの指導方法
仔犬、仔猫(1歳くらいまで)のうちに出来ていて継続できると一番良いが少しずつ慣らせば成犬、成猫でも出来るようになる子はいる。始めは一瞬、短い時間からはじめていき徐々に時間を伸ばしていく。しっかり出来るようになるまでは長期戦を覚悟しておく事を伝える。はじめ方、終わり方を決めておいてあげる(掛け声やご飯の後すぐなど)と犬猫達には馴染みやすく習慣化しやすいと言われている。
①口周りを触られる事に慣らす
頭を撫でている時に一瞬口周りを触るからはじめ、口周り単独で触れるように、指先→手の甲→手のひらで撫でると少しずつ触る範囲を広げていく。この時、触れたら褒めるまたは触れたらおやつをあげるなど口周りを触られると良い事があると関連付ける。もし出来るなら、仰向けの体勢で行えると歯磨きする際にやりやすくより良い。

②口の中を触られる事に慣らす
唇をめくる→歯や歯肉を一瞬触る→指を奥の方に入れる→歯の裏側に触れるとこれもすこしずつすすめていく。歯磨き剤や肉汁を指につけて触ってみる事ができるとより良い。上記と同じように、慣れるまでや先にすすめたら褒めたりしてあげる

③ガーゼや軍手などに慣れる
いままで指や手のみで触っていたが、口の中に物が入る事に慣れてもらう。最初は物を持った手で口周りに触れるなど、物があっても怖くない事を学んでもらう。触られる事に慣れ、ガーゼなどにも不信感がなくなったら、指に巻きつけ犬歯など磨きやすいところから磨く。これも少しずつ時間を伸ばしていき最終的に全部を磨けるようになる

④歯ブラシで磨く
磨く前に③と同じように歯ブラシ自体を慣らしていく。歯ブラシそのものに慣れたら歯ブラシを濡らし、少しずつ歯ブラシを行う。歯ブラシは、口腔内を傷つけてしまわないよう先が小さく毛が軟らかいタイプを選ぶ(人の幼児用で可)歯ブラシの角度は歯に対して45度で当てるのが一番良い。

犬猫の歯は、前記のように3日で歯石に変わってしまうので、毎日歯磨きが出来るのが望ましいが、最低でも3日に1回の歯磨きを行うと良い。どうしても歯磨きが難しい子もいるので、その場合は双方の信頼関係のためにも、歯磨き以外のデンタルグッズで何とか管理できないのか、それぞれのグッズ、おやつの特性を理解し説明し一緒に口腔内ケアを考えてあげる事も大切である。

 

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いかがでしたでしょうか。
お口周りを触るのを嫌がる子が多かったり、触れていても奥のほうまで見ることが難しかったりして、気付いた時には抜歯が必要になってしまっていた…ということが多い口腔内疾患ですが、少しずつ慣らしておければ最期の時まで歯を守ってあげる事ができるかもしれません。

歯磨きだけではなく、おやつや様々なグッズで口腔内管理を補助する事も出来ます。
病院にもさまざまなグッズがありますのでご興味のある方はお気軽にお問い合わせください。

看護師 坂本恵