GOLLPとは、大型犬のストライダー(喘鳴:ゼエゼエ、ヒューヒューとなる呼吸音)の代表的な原因疾患で、喉頭機能の障害(喉頭麻痺)による喘鳴の他、飲水時のムセや咳、声の変化、運動不耐性などの症状を示す疾患です。発生犬種の70%がラブラドールと言われており、私自身もラブラドールとともに20年以上生活していますが、確かにラブの中には老齢期に入ると喉頭機能の低下が気になるコが出てくるのは実感として感じています。
過去には喉頭単独の病態と捉えられていたGOLPPですが、最近の知見では、進行性、全身性の神経障害を併せ持つ疾患であり、進行にともなって、運動失調や後肢麻痺、歩行不能に陥ったり、食道機能障害による誤嚥性肺炎を併発させる事も知られてきています。そのため、老齢期になって喉頭や筋肉、食道などの様々な部位に進行性に神経学的異常を示す症候群として表現されています。
症状(障害部位により様々)
喉頭機能障害
ストライダー、飲水後の咳やムセ、声の変化など
神経障害
筋の萎縮、後肢のふらつき、脱力など
食道機能障害
誤嚥、吐出、誤嚥性肺炎など
診断
軽い麻酔による沈静下で行います。気管支内視鏡を用い呼吸のタイミングに合わせた喉頭の開閉(空気の取り込み)を観察し、吸気のタイミングで本来は開くはずの喉頭が動かない事を確認し診断とします。また動いてはいるが痙縮(小刻みな震え様)も本疾患と診断されます。麻酔が難しい場合、診断率は下がりますが、無麻酔喉頭エコー検査で診断を試みる事もできます。
GOLPPに関するデータ
GOLPP症例のうち、ストライダーが出るようになった時点で既に26%の症例で何らかの神経症状が出ているといわれています。また診断時から平均12ヶ月で神経症状の発生率は100%となり、平均予後が23ヶ月という厳しいデータも報告されています。
神経症状の内訳
17%:軽度運動失調、軽度脱力、後肢のもたつき
37%:中程度以上の運動失調、筋萎縮
42%:顕著な後肢麻痺
4%:歩行不能
治療
喉頭機能障害
糸で喉頭を広げるタイバック術や半導体レーザーを用いて狭くなった喉頭を広げる方法があります。しかしながらGOLPPが持つの様々な臨床症状のうち呼吸器症状のみが治療目的である点と、強制的に広げられた喉頭によって10〜24%で誤嚥性肺炎が合併することが知られているため、両方法は抜本的治療ではなく、QOL改善が目的の方法となります。適応時期の決定には、年齢や症状の程度、進行速度などを加味した熟慮が必要となります。
神経障害
後肢のふらつきが出始めたら理学療法を始め少しでも進行の速度を抑える事を目的にします。プールも有効ですが、喉頭機能障害より誤嚥しやすいため顔を水につかない工夫が必要です。
食道機能障害
食事の与え方の工夫、食道機能のサポートする各種薬剤の使用しQOLの向上を目的にします。適切な管理で誤嚥性肺炎の発生率は18%→8%まで下げられる事が報告されています。
GOLPPは老齢期に入ってから発症する疾患です。老齢期ゆえに加齢による変化と病気との境界線の判断が難しい疾患といえます。また内科療法にしても外科療法にしても決定的な治療法は2023年現在まだありません。したがって、呼吸音に違和感を感じたり、咳やムセが気になった場合、できるだけ早期に本疾患を疑い、症状の程度やオーナーの価値観に合わせた方針の相談(経過観察、対症療法、確定診断)が大切です。
GOLPP発症後のデータには厳しいものがあります。しかし、進行の遅いGOLPPの報告もあります。QOL維持に必要なサポートを行いながら、老齢期の入った大型犬の全てのコ達が、少しでもゆっくりと穏やかに歳を重ねる事ができたら飼い主としても獣医師としても嬉しいですね。
獣医師:伊藤