遊んでいる最中に、突然キャンと鳴いて、後ろ足をケンケンさせたり歩かなくなってしまうけど、数分でいつもどおりに戻るような症状が認められた場合には、膝蓋骨内方脱臼(パテラ)を疑う必要があります。膝蓋骨内方脱臼とは、主に小型犬に発生する膝関節の病気です。足の動かし方によって、膝蓋骨(膝のお皿)が膝の中央(本来の位置)から内側に脱臼してしまい様々な程度の歩行障害が生じます。脱臼を繰り返すことで膝に炎症反応が蓄積し、進行的な関節炎を起してしまいます。
膝蓋骨内方脱臼の原因
膝蓋骨脱臼の原因は先天性と後天性に分けられます。
○先天性
・大腿骨の溝(大腿骨滑車)の発育異常
・筋肉や靱帯の発育異常
・骨の成長異常
○後天性
・フローリングで滑る
・急激で過激な方向転換
・転落
・肥満
膝蓋骨内方脱臼の症状
脱臼の程度により、無症状から運動障害を起こすものまで幅広く認められます。
◆先天性脱臼の場合
歩けるようになった頃から後ろ足に異常が認められます。脚が湾曲したり、脱臼に伴って一時的に片足をケンケンさせたりします。通常は痛みを伴いませんが、進行とともに痛みが生じ、はっきりとした症状が認められるようになります。両足が脱臼すれば起立したり歩くことが困難となります。
◆後天性脱臼の場合
様々な外力によって突然発症します。犬種や年齢に関係なく痛みを伴い膝関節が腫れてしまいます。日常生活においては体重の過多やフローリングなどが問題となることが多いと言われています。
膝蓋骨内方脱臼の診断
一般症状・触診によって診断されます。X線検査によってその重症度や手術の適応など
について検討します。
重症度は4つの分類(グレード)に分けられています。
◆グレード1
時々脱臼を起こし短い時間の跛行が認められます。足を伸ばして膝蓋骨を指で押すと簡単に脱臼するが、指を離せば元に戻るのが特徴です。
◆グレード2
膝を曲げて、足を軽くついて歩くような歩様となります。膝関節を曲げると膝蓋骨は脱臼するが、足を伸ばすと元の位置に戻るのが特徴です。
◆グレード3
バランスをとるために地面に足を触れるだけでほとんど力をかけずに歩きます。脱臼したままの時間の方が長く、関節の動きによって時々元の位置に戻ります。また、指で押すと一時的に戻るが関節を曲げると再度脱臼してしまうのが特徴です。
◆グレード4
足を持ち上げたままで、全く使わない状態で歩きます。歩くときは背を曲げ、うずくまった様な姿勢になります。常に脱臼したままで、元に戻ることがありません。
膝蓋骨内方脱臼の治療
膝蓋骨脱臼の治療は外科療法と内科療法に分かれています。
内科療法
内服やサプリメント、理学療法(半導体レーザー治療)、運動制限、体重制限などが含まれ、グレードに応じて治療を選択します。
外科療法
手術によって脱臼を起こす確率を減少させることが目的となります。年齢や症状、犬種や体重、生活環境などによって、手術の必要性の有無が検討されます。代表的な基準には以下のようなものが挙げられます。
○小型犬成犬で、痛みや機能障害またはそれに発展する可能性がある場合。
○小型犬成犬で、軽度脱臼で無症状は手術適応とならない。
○中~大型犬は、無症状でも合併症発現の可能性が高いため手術適応となる。
○成長期(生後半年程度)の場合、手術を適応することによって膝蓋骨脱臼に合併する骨の湾
曲を予防することが可能なため小型犬の場合でも手術適応となる。
手術の実際(画像は白黒に処理してあります)
外科療法の適応基準を満たせば以下のような手術が行われます。
滑車溝形成術
膝のお皿が収まる溝(滑車溝)を深くする手術です。軟骨をめくり、溝を深くしたあとに(矢印)、再度軟骨を戻します。
脛骨結節転位術
膝のお皿の靭帯が付着する部位(脛骨結節)を一度切り離し、金属製のピンを用いて膝のお皿がまっすぐになるような位置にずらします。位置を変化させることによって、膝のお皿にかかる力を変えることができます。これにより脱臼しづらくなります。
膝蓋骨内方脱臼の治療、とくに外科療法の適応には、年齢や犬種、生活環境、脱臼の程度などに関する詳細は検討が不可欠となります。また、将来的に起こりうる合併症(関節炎)の予防には早期の段階での判断が重要となる場面もあります。気になる症状がある場合には、動物病院への早めの受診をお勧めします。