胆嚢粘液嚢腫とは、肝臓の一部にある袋状の構造をした胆嚢という部分に、暗緑色ゼリー状の粘液が異常に貯留し、胆嚢の壁の障害や胆汁(消化酵素)の分泌障害をおこす疾患です。胆汁の分泌障害により、慢性の消化器症状(嘔吐、下痢、腹鳴音、食欲不振、他)、肝炎などによる様々な症状が認められるようになります。また、末期には胆汁の流れが完全に遮断され、黄疸や胆嚢破裂による腹膜炎などの致死的な合併症を起こしてしまいます。
本来、胆嚢の働きは、肝臓で作られた胆汁を一時的に貯める場所で、サラサラとした緑色の胆汁で満たされています。胆嚢と腸管は細い管でつながっていて、必要に応じて胆汁を腸管内に分泌し、食べ物の消化や腸内細菌の過剰な増殖を抑える仕事をしています。従ってなんらかの原因で、胆汁の分泌障害が起こってしまうと、食べ物の消化システム、腸内細菌のバランス、肝臓機能に様々な障害が生じ、多彩な臨床症状を示すようになります。
サラサラの胆汁がゼリー状に変わってしまう原因
明らかな原因は不明といわれていますが、その発生要因としては以下のようなことが考えられています。
○高脂血症を起こす代謝疾患をもっている
○加齢による胆嚢壁の過形成や胆嚢の運動性の低下
○遺伝的背景
○消化器疾患からの二次的な発症
胆嚢粘液嚢腫の診断
不定期に繰り返す消化器症状(嘔吐、下痢、腹鳴音、食欲不振、他)や黄疸などによって、本疾患が疑われます。診断は血液検査、腹部超音波検査を用いて行い、最終的な確定診断は病理検査によって行われます。
胆嚢粘性嚢腫の治療
早期に発見された場合には、内科療法で管理可能な場合もありますが、多くの場合、ゆっくりと悪化し、外科手術が適応となります。しかしながら、重度の胆嚢粘液嚢腫の場合、周術期(手術中や術後)の死亡率は最大で30%前後という報告もあり、早期発見早期治療が大切な疾患の一つです。
実際の手術時の所見(画像は白黒に処理してあります)
内科療法による反応が得られず、様々な併発症の発生が懸念された場合、外科手術による胆嚢切除が実施されます。画面の中央に見える白色の部分が罹患した胆嚢です。通常は中身の胆汁(緑色)が透けて見えますが、胆嚢に問題が生じると白い塊のように見えます。
切除後に内容物を確認します。暗緑色のゼリー状の塊の貯留が認められます。
胆嚢粘液嚢腫の術前診断には、主観的な診断方法が含まれ、手術適応時期に関しても個々の症例により判断が異なる場合があります。従って、現在の臨床症状や、内科療法に対する反応、懸念される併発症に対する検討を重ねながら、治療方針を立てていく必要があります。また、重度の胆嚢粘液嚢腫の場合、致死的な合併症の発現や、外科手術のリスクも高いため、治療を開始する際には十分な相談が大切となります。