心嚢水貯留とは、心臓と、心臓を包む膜である心膜との間に液体が病的に溜まる現象をいいます。軽度貯留の場合には無症状のこともありますが、貯留量が増加するに従って、心臓の動きが悪くなり、さまざまな程度の血液循環障害が発生してしまいます。また、貯留液の増加によって心膜内の圧力が過度に高まると、心臓の動きが制限されてしまう現象(心タンポナーゼ)が発生し、短時間の内に予後の厳しい状態となってしまうことがあります。
心嚢水貯留の原因
特発性と腫瘍続発性が報告されています。発生率の報告には幅があり、およそ半々の発生率と表現することができます。心タンポナーゼを発生している場合、腫瘍続発性のことが多いとも報告されています。
腫瘍続発性とは、心臓に腫瘍ができることによって生じる心嚢水貯留を意味し、血管肉腫やケモデクトーマ(大動脈小体腫瘍)、中皮腫が多く報告されています。稀なケースとしてはリンパ腫や線維肉腫なども報告されています。
心嚢水貯留の症状
虚弱や腹囲膨満、腹水、呼吸困難、運動不耐性など多彩な臨床症状が認められます。高年齢で発症した場合、臨床症状に気付かない場合もります。
心嚢水貯留の診断方法
臨床症状や、心電図検査(R波減高)、レントゲン検査にて本疾患を疑います。診断には心臓エコー検査や心膜穿刺検査が必要となりますが、発生原因の診断には開胸下での病理検査が必要となることがあります。
超音波検査の実際
左右ともに心臓の超音波検査の写真を示します。矢印の内側にはそれぞれ心臓が位置していますが、左の写真では、矢印部分に黒い領域が認められます。超音波検査は、液体を黒く映す性質があることから、左の写真では心臓の周囲に液体(心嚢水)がある事がわかります。それに対して、右の写真では、矢印の内側にすぐ心臓の壁が認められています。
超音波検査の限界
超音波検査にて、特発性または腫瘍続発性かの鑑別を行います。しかしながら、超音波検査は塊を形成するタイプの腫瘍が診断対象であり、本疾患を発生させる腫瘍のおよそ30%で塊が形成されない場合があることから、本疾患における超音波検査での鑑別能はおよそ70%程度といえます。
心膜穿刺検査の限界
心膜穿刺検査にて、発生原因の診断を試みます。しかしながら、例え腫瘍続発性の場合であっても、心嚢水内に腫瘍細胞が認められなかったり、正常細胞との鑑別が困難(主に中皮腫)な場合があることから、やはり100%の検査ではないとされています。
治療のながれ
心嚢水の抜去を行います。採取された液体の沈渣分析、胸腹部レントゲン検査、エコー検査(心臓、腹部)、血液検査、CT検査を組み合わせる事で、特発性または腫瘍続発性の検討を行います。(確定診断には心膜の病理組織検査が必須)
① 特発性が疑われた場合
心嚢水の抜去処置を数度繰り返します。心嚢水の抜去後は、一時的に体が楽になりますが、通常は再貯留をしてしまいます。20~60%の確率で3回以内の抜去処置にて改善が期待できるという報告があることより、再貯留の速度に合わせて心嚢水の抜去処置を3回までは実施することが勧められます。
② 腫瘍続発性が疑われた場合
確定診断のための病理組織検査に進むかを相談します。しかしながら、多くのリスクがある検査となってしまうため、慎重な判断が必要となります。
③ 3回の抜去処置でも改善しない場合
●再度の沈渣分析を実施
一定の条件を満たした場合、抗がん剤の検討(高リスク) 。
●外科療法の検討(心膜切除術)
予後不良の確率の方が高い選択肢となってしまうものの、一部では完治の報告も存在します(原因による)。腫瘍続発性の場合、術後の予後はおよそ2週間程度となってしまうこともあります。
心嚢水貯留(心タンポナーゼ)は、発見時には既に重篤な状態となってしまっていることが多く、症状が認められてからの進行がとても早く感じてしまう疾患の一つです。検査や治療のメリット・デメリットをよく相談しながら進める事が大切と思われます。