小型犬では、硬いガムやジャーキーを食べた際に、大型犬では牛骨や蹄、またはワンコ同士で遊んでいて顔同士がぶつかった際に、歯が折れてしまったり、欠けてしまったりする事が時々あります。
従来までは、犬は歯の痛みに強いからや、食べるのに支障がないからという理由を主体に、実際に問題が生じて抜歯が必要となる段階まで治療が行われなかったケースも獣医療では多かったのですが、近年では獣医師、飼い主の歯科に対する意識の向上に伴って、獣医療における歯科の治療選択も少しずつ広がってきています。
過去には、硬いものを噛ませることは歯の健康に役立つという考え方もありましたが、近年では硬いものを習慣的に噛むことによって、少しずつ目に見えない亀裂が歯に生じてしまい、やがては折れてしまったり欠けてしまったりすることが知られるようになってきました。『硬いもの』の定義が具体的に表現されていないのですが、人が噛んでみて、歯型が残る程度の硬さなら大丈夫であると思われます。、
下の写真は、歯の表面を覆うエナメル質が割れてしまった写真です。エナメル質は歯そのものを保護する硬い構造ですが、一度割れてしまうと元に戻ることがありません。また、咬合の際に力のかかる部位であった場合、エナメル質が欠損した部位では、歯の磨耗や破折が生じてしまいます。さらには、歯髄への感染、歯周病への発展なども懸念されます。歯の構造的には人と同じであることから、知覚過敏や歯の痛みなどが生じている可能性もありますが、そのような事を訴えてくれない場合も多いのも動物の歯科の特徴かもしれません。
犬歯の正面から内側のエナメル質が剥がれ落ちてしまっています。
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紫外線ライトを照射することで、充填剤の強度を上げることができます。
充填剤の補填、紫外線照射を繰り返しながら少しづつ盛り上げていきます。
最後に研磨を行い、被覆する液体を塗布することで歯冠修復が終了します。
歯冠修復は獣医療においても重要な治療であると考えれます。ただし、人の治療の異なり、全身麻酔が必要であることが悩ましいところであり、歯冠修復治療の必要性については、個々の状態による全身麻酔のリスクを天秤にかけて考えることが大切であると思われます。