看護師セミナー4 概論②

こんにちは。坂本です。
今回は概論②は腫瘍についてです。
腫瘍といっても良性、悪性など様々なものがあります。その分類方法や、悪性腫瘍の看護、治療について
また動物看護師として注意するべき点などを学びまとめました。
具体的に病名があり、治療法を学ぶという講習ではありませんが腫瘍についての知識が少しでも伝わればと思います。

 

以下内容
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

癌、腫瘍とは
細胞がルールに反して自己の暴走により過剰に増殖してできた塊の事を腫瘍という。腫瘍は悪性のものと良性のものに分けられる。癌という言葉は一般的に悪性腫瘍全般を示すものとして使用されている事が多い。癌に侵された細胞は炎症を起こしていると言える。炎症の特徴とは、腫れ、赤み、熱感、痛みのあるものでこれに機能不全が加わると炎症の5大徴候と呼ばれる。

腫瘍の分類
腫瘍が身体に与える影響の大きさにより、予後(将来的な状況や見通し)の悪い悪性腫瘍と予後の良い良性腫瘍に分けられる。さらにその腫瘍の発生した細胞が上皮細胞に由来するものを上皮性腫瘍(肺癌,乳癌,など)と分類し、上皮細胞以外に由来するものを非上皮性腫瘍(骨肉腫,血管肉腫など)に分類する。悪性で上皮性のものを癌腫、非上皮性のものを肉腫という。腫瘍細胞をを調べた時に、腫瘍になったもとの組織と似た特徴をもったものを分化型と呼び良性に分類されるが、特徴を失ったものは未分化型と呼び悪性に分類する。

悪性腫瘍の特徴
・勝手に増殖を続け止まらない、自律性増殖
・周囲にしみ出るように広がるとともに、あちこちに飛び火し転移する、湿潤と転移
・正常組織の栄養を癌組織が奪い身体が衰弱していく、悪液質 があり
良性腫瘍は自律性増殖はするが湿潤や転移、悪液質をおこすことはない。

診断をするためには
腫瘍を疑う時には各種検査が必要になる。全ての検査が必ず必要なわけではないが、身体検査,血液検査,画像診断(レントゲン,エコー,CT,MRIなど),尿検査,細胞診などを行い確定診断をしていく。細胞診での確定診断が比較的容易な肥満細胞腫は、針をさすことによって播種(まだ侵されていなかった周囲の細胞に癌細胞が種を撒いたように広がる事)が起こる可能性があるが、細胞診しないと診断が困難のため、手術時に広く摘出する必要がある。

腫瘍の治療
悪性腫瘍の治療には抗がん剤、外科摘出、内科治療、放射線治療などが代表的に上げられる。悪性腫瘍の疑いがある、または悪性腫瘍ですと診断をうけた飼い主さんはその言葉を聞いた瞬間から不安と恐怖を感じ、この言葉からネガティブな症状と予後を連想される。治らない病気に対して拭いきれない恐怖や悪印象を持たれている場合が多い。悪性腫瘍診断し、治療の相談、開始時には飼い主さんとしっかり話し合う事が重要であり治療を成功させ続けるためには絶対に必要な事である。これは獣医師に限った事ではなく、動物看護師も必要知識を持ち、予後や治療,その治療によって起こりうる副作用やその子に合った環境,条件なども一緒に考え相談出来る相手になるべきである。飼い主さんが常に治療に対する不安と恐怖をもっているという事をスタッフ全員が共通認識とし、治療を受けている子と同様に飼い主さん自身も苦痛を表わす子を見ている事の苦しみから解放されたい気持ちをもつ事もある。その結果、現在の、または今以上の治療を拒否したい気持ちを持っている事もあり得るのでしっかり相談し先に進むべきである。
治療を受ける子に対してQOLが改善するように、有効な治療を選択し実行出来るようにする。飼い主さんが望む事は代表的に、痛い辛い思いをさせたくない、嘔吐や下痢をさせたくない、飢えさせたくない ということであり、動物看護師はこれらを念頭において治療、看護を担当する。

治療の目標地点は人によって様々であり、完治を目指すのか、完治まではいかないが延命を目指すのか、寿命を達成させるために最善を尽くすのか、QOLを保つ事を最優先とするのか、QOLの向上を目指し対症療法をするのか、緩和的治療、ホスピスケア、安楽死など 望むことは様々なので合わせた治療が出来るように考える事が必要。

担がん動物の治療に対する動物看護師の役割
悪性腫瘍を持つ子の多くは癌性疼痛と呼ばれる強い痛みを訴える事があるので、しっかりとした鎮痛の治療が必要になる。疼痛を緩和することで、癌の根治に繋がらなくても調子がよくなったり、食欲が戻ったりし飼い主さんの心も治療に前向きになってくれる等、全てが良い方向に向かう事がある。鎮痛薬にも様々な種類があるため、獣医師に担がん動物の状況を詳しく伝え、積極的に鎮痛治療に望むべきである。
担がん動物(がんを患った動物)の目標に合った治療に最善を尽くすのはもちろんの 事、動物看護師は飼い主さんの精神的な関わりも含めて寛大な気持ちをもって接することが要求される。非常に辛く悲しい場面に出くわすことも少なくないが、担がん動物、飼い主さんと一緒に乗り越えていく覚悟と信頼関係を築く事も必要である。

悪液質、栄養療法
癌細胞と正常細胞が栄養分を取りあう事になるので、担がん動物には適切で良質な栄養を充分に与えることが重要になる。しかし、食欲の低下や機能障害により充分に食べられない事も多く、動物看護師は少しでも食べてもらえるように工夫する方法を知り実施できる、または飼い主さんに伝えてあげられるよう知識をつける事が必要である。好みの形状や温度、香りなどを探ってあげるのもひとつ。食が進まない場合には強制的な給餌も手ではあるが、この際には通常より一般状態が悪いので、誤燕や嘔吐を引き起こさないようなど細心の注意が必要となる。
より確実なカロリーの摂取方法として、経鼻食道チューブや胃ろうチューブなどもあるがこれは飼い主さんが望めばの処置になる。様々なリスクや、注意点があるので自宅で行う際の方法の指導もしっかりとした知識を持った動物看護師が行う。

免疫療法
リンパ球の中のT細胞の中のNK細胞が働き癌細胞から正常細胞を守る。このNK細胞を増やす療法のことを言う

外科摘出術
全身麻酔下の外科手術で腫瘍を摘出すること。良性腫瘍の場合、経過観察は必要だが再発しない限り症状が出る事がなくなる。摘出範囲として、良性腫瘍の場合本体から周囲,下方向にも1㎝幅以上での切除、悪性腫瘍の場合は3㎝以上と言われている。外科手術で体腔内の腫瘍を一部摘出し、病理検査に出す事もあるが悪性腫瘍だった場合は再手術になってしまうので、悪性腫瘍を疑う場合は全部を摘出して病理検査に出す方が多い。術後の入院管理などの際には病状を知っている必要があるため、疑われている腫瘍の種類などをしっかりしっておくべきである。

化学療法
血管内抗がん剤治療について
抗がん剤は、癌細胞にのみ作用するのではなく、正常細胞にも大きく影響を与える。
これが副作用とよばれるもので、代表的には骨髄抑制・消化器障害・脱毛がある。
抗がん剤は一般的に使用される薬剤とは異なり、使用方法、投薬量が細かく定められている物なので、間違える事は命にかかわるので絶対に許されない。
また抗がん剤は使用する動物にのみ影響を与えるのでなく、薬剤に触れることで人も健康を害する可能性があるため、取り扱いや保定中、排泄物の処理などに注意が必要である。抗がん剤の代謝時間は薬剤によって変わるので、排泄物の取り扱いはグローブをして行うのが望ましい。代謝に時間のかかる物は、家に帰ってからの取り扱いにも気をつけてもらうよう伝えていくべきである。そのためには薬剤による代謝時間を知っておく必要がある。
抗がん剤投与時、特に静脈内注射時には長時間の点滴が必要になる事が多く、留置針を設置する際に絶対に露液(もれてしまうこと)しないように注意する。もしも露液してしまった場合は、重度の皮膚壊死をおこしてしまうので露液を発見した段階で点滴,注射をやめてシリンジ等で留置針から少しでも体内の薬液を吸引し、無菌の生食で薬液を薄めるため洗浄する。この事から薬液が漏れてしまった場合、すぐに留置針をはずすのではなく、洗浄が終わるまでは留置したままにすべきである。
抗がん剤投与後には、少しの変化にも対応できるようにしっかりとした管理、観察が必要である。また予期していない副作用にも対応できるように注意する。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

いかがでしたでしょうか。
悪性腫瘍を患った子の飼い主様は毎日色々な想いを抱えていることと思います。
そこで私達動物看護師が少しでもその想いをくみ取って、一緒に歩んでいけるよう今回のような講習で沢山の知識をつけていかなければと思います。

次回の概論では高齢犬の実情、介護についてをまとめお伝えいたします。

看護師 坂本恵