2019年1月日本獣医がん学会所感その1

今回の学会では、犬の肥満細胞腫の外科治療に関するとても重要な新知見の発表がありました。これまでは院内の細胞診という検査で肥満細胞腫が疑われ場合、肥満細胞腫は悪性のガンであり再発もしやすいので、とにかくできるだけ広く大きく切って根治を目指しましょうという説明だけが獣医療ではなされていました。例え小さなシコリであっても肥満細胞腫であれば大きな手術となっていたため、動物にとっても飼い主の方々にとっても、とてもストレスのかかる選択となってしまっていました。それが大きく変わりそうです。肥満細胞腫の中にもあまり悪くないものが存在し、そうと事前に分かれば、これまでよりも負担の少ない外科手術が可能となりました。その概要を以下に記載させていただきます。

これまで、細胞診にて肥満細胞腫と診断されれば、その潜在的悪性度を手術前には評価できないことから、根治を目指す場合、とにかく大きく切って確実に切り取るという選択肢が由一の正しい方法と広く認識されてきました。しかし、肥満細胞腫の中にも悪性度の低いものが含まれることは以前から知られていたことより、特に小さな肥満細胞腫の摘出の場合、本当にこんなに大きく切るべきなのかというジレンマを獣医師、飼い主共に感じる疾患の一つでした。

肥満細胞腫の悪性度を診断するためには、肥満細胞腫の悪性度を三段階に分類したPatnaik等の分類方法を使用するのが一般的でした。この分類方法では、腫瘍を手術で摘出後、病理組織学的検査に提出することで始めてその悪性度判定が可能でした。悪性度の高い肥満細胞腫は、再発や遠隔転移などいわゆる癌の挙動を取る、極めて悪い予後を示すことから、臨床獣医師が肥満細胞腫と診断した場合、手術で確実に取り切るためには、とにかく大きく切り取るということしか対策が取れませんでした。取らないと悪性度がわからない、わからないから大きく取るという図式です。また、Patnaik等の分類方法にはもう一つの問題がありました。それは、病理医間でのグレード判定に差が少なからず生じやすいという点であり、適切な治療選択にも影響が出てしまうことがありました。

近年になって発表されたKiupel等の二段階分類法は、肥満細胞腫の悪性度の分類方法を、系統的に簡便化(高グレードと低グレードの2分類)することで、病理医間のグレード一致率を97%まで押し上げたのに加え、当院でも行なっている術前の細胞診検査によって、グレード推測を可能とする新たな基準を定めてくれました。新たな基準によって、手術の前に悪性度を推定する事を可能としてくれました。しかもその正診率は低グレードで97%、高グレードで68%であることからとても重要な報告です。手術前におよその悪性度がわかるようになったことで、これまでのように、悪性度がわからないからとにかく大きく切り取るという方法から、悪性度の低いものは低いものなりの取り方、悪性度が高いものは高いものなりの取り方に手術方法を分けることを可能としてくれました。獣医師、飼い主共に感じてきた肥満細胞腫の手術に関するジレンマの解消や、悪性度の低いコ達の手術負担を減らすことにつながる発表を聞くことができて、とても意義のある学会となりました。

獣医師:伊藤