薬を服用する際、その薬の効果と副作用という問題を常に意識させられます。強い薬であったり、長期間の服用が必要な場合は尚更で、この問題は、薬のほとんどが複数の作用を持ち、そのうち、生体に有益な作用が『効果』、有害なものが『副作用』となるからです。多くの場合で、『効果』が『副作用』を大きく上回るため『薬』として使えるのですが、薬との相性や体質によっては副作用の方が強く出てしまう場合があります。
そうした中、近年モノクローナル抗体製剤の開発が急加速で進んでいます。
モノクローナル抗体製剤とは、一般的な『薬』とは異なり体内に生じている様々な生体反応のうち、一つの生体反応に治療目的を限定し、さらに、その生体反応を生じさせるための数ある仲介反応の一つに薬の作用が限定されるように製作され、目的(効果)以外の作用(副作用)が出ないことを狙って作られている画期的な薬剤です。獣医療においても、最近になって発売される新薬にモノクローナル抗体製剤が増えてきています。
今回ご紹介したいのがNGFモノクローナル抗体製剤であるリブレラ(犬用)とソレンシア(猫用)という製剤です。老齢期の変形性関節炎に伴う疼痛緩和を目的としたお薬です。
これまで、老齢期の変形性関節炎の痛みに対する治療では、痛み止めを多用できないという課題がありました。多様による副作用の問題です。痛み止め薬も副作用が出づらくなるよう進化はしていますが、やはり『出る時には出る』感を払拭することはできていませんでした。
そのため、老齢期の関節の痛み(破行、遊ばなくなる、散歩を嫌がる、ジャンプしなくなる等多彩な症状)に対しては、体重管理やマッサージ、鍼灸などの対応を主体に、痛みが強い時には一時的に痛み止めを服用するのが一般的でした。
新薬のリブレラやソレンシアは障害を受けた関節から放出されるNGF(慢性痛のカギ)という物質のみを阻害する薬剤です。そのため、NGFの作用だけを止め(効果)、その他の作用(副作用)がないのが最大の特徴で利点です。
【NGFには以下のような直接的及び間接的作用】
○関節周囲の神経に結合して痛みの感度を高める作用
○炎症細胞に結合して、さらなるNGFの放出と炎症細胞の活性化による疼痛発現作用
○上記を引き金に血管新生や神経発芽が生じてさらに痛みが増強
○上記を理由に関節の変性と痛みの悪化
○それによるNGFの放出と悪化を繰り返す悪循環
効果や副作用など詳しくは以下HPを参照ください。
リブレラ
ソレンシア
これまで、副作用を出さないようにある程度の痛みを我慢したり、状況によっては副作用を覚悟の上で使用せざるおえない場合もあったかもしれない老齢期の緩和治療に登場したモノクローナル抗体製剤。歳をとる=苦しみが増えるという図式もあるとするならば、この新薬の登場によって少しでもその図式が変えられたら嬉しいですね!