ブルドックやフレブル、パグ、シーズーなどの短頭種で、短頭種らしい可愛い仕草を思い浮かべた時、どのような仕草を思い浮かべるでしょうか。BOASとは短頭種に見られる先天的な呼吸器の形態異常と、それに続発する様々な気道疾患の総称です。正常と病的の境界線が非常に不明瞭で、かつ、基礎疾患の放置により様々な続発疾患の発生が知られていることより、早期発見が非常に大切な疾患の一つです。
以下の表に、健康な短頭種の『仕草』と病的(BOAS)な短頭種の『臨床症状』を順番に対比させて書いてみました(例:健康な短頭種の①とBOASの①は同じ症状を表現を変えて書いています)
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『仕草』と『臨床症状』を対比で書いてみましたが、おそらく獣医師にも飼い主も自信を持って両者の違いに正しく線引きをすることは難しいと思います。これがBOASの発見を遅らせてしまう要因となり、後述する続発疾患の併発を許してしまう事につながっています。
BOASを発生させている基礎疾患と、それに続く続発疾患
短頭種は品種改良によって鼻が短いという遺伝的形態的な特徴を持っています。この特徴が過剰に出た場合、病的な特徴となり基礎疾患と表現されます。基礎疾患の存在により、呼吸の際の空気抵抗が増大する結果、短頭種の子達は、増大した空気抵抗に対抗するために、常に口角を広げ空気の流入口を広げる努力をしたり、腹筋を使って少しでも空気流入量を増やそうと日々努力をしながら生活をするうちに、下記に示すよ理由で様々な続発疾患が発生してしまいます。
BOASの基礎疾患
◯鼻孔狭窄
◯軟口蓋過長
◯軟口蓋肥厚
◯巨大舌
これらの遺伝的な形態異常によって、呼吸の際の空気の流入量が減少する結果、減少した空気の量を補うために、努力呼吸(過剰な呼気圧、吸気圧の連続)が発生。長年の過剰の努力呼吸が気道の各構造物に負荷をかける結果、次の挙げられるような続発疾患が段階的に発生し、ますます呼吸が苦しくなり、ますます努力呼吸が強くなり、ますます気道の構造物に負荷がかかりという悪循環がBOASの正体ということができます。
BOASの続発疾患
◯気道粘膜の浮腫
◯喉頭小嚢の反転
◯楔状突起(喉頭の構造の一部)の内側変異
◯小角突起の内側変異(喉頭の構造の一部)
◯胸腔内圧上昇に起因する胃食道逆流
◯逆流性喉頭炎
◯中耳炎
◯肺性心
◯など
基礎疾患と続発疾患の組み合わせによって発生する空気抵抗の慢性的な増加は、さまざまな続発疾患を併発させながらいずれ喉頭虚脱へと発展、永久気管瘻なしでは、自力呼吸が難しい状態となってしまいます。
重要なポイント
BOASの基礎疾患が比較的良好に治療できる事に対して、続発疾患の多くは診断時には既に慢性経過を示していることが多く、治すことが難しいものが含まれます。また、いくつかの続発疾患の組み合わせにより、構造的及び時間的負荷の蓄積の結果、恒久的な喉頭の機能不全である喉頭虚脱を発生させます。喉頭虚脱は、永久気管瘻の設置を余儀なくされる病態で、QOLに大きな影響を与えてしまいます。そのためBOASの早期診断、早期治療はとても重要な課題となります。
BOASの早期診断、早期治療のための『自宅での観察ポイント』
フレンチブルドック、パグ、シーズー、ボストンテリアを家に迎えた際は、からなずBOASの基礎疾患の存在を意識する事が大切です。自宅で観察していただきたいポイントを以下となります。
鼻の穴(鼻孔)の観察
正常な鼻孔と狭窄した鼻孔の比較です。狭窄の程度は様々ですが、流体力学的には鼻孔の狭窄は空気抵抗の増悪因子としては最も影響力が強い因子といわれています。
呼吸の観察
◯呼吸音が大きい
◯開口呼吸が多い
◯タンや咳が多い
◯舌なめずりが多い
上記の観察結果で気になる所があった場合には必ず獣医師にお伝えてください。まずはBOASの基礎疾患を疑うこと、ついで正しく評価することが重要となります。軟口蓋や巨大舌などの基礎疾患の評価には麻酔が必要となります。現在、多くの場合で避妊、去勢手術が選択されていますので、その麻酔の際に一緒に評価をすることをお勧め致します。BOASの基礎疾患が疑われたら、成長に伴う変化を観察しながら必要な場合、生後12ヶ月までには基礎疾患の矯正の手術を検討し、続発疾患の併発を防ぐ事が大切です。
BOASの治療目的
◯上部気道閉塞の主な原因の除去
◯若いうちに対処することによる続発疾患併発の最小化
◯誤嚥性肺炎の予防
◯胃食道逆流の軽減と予防
※呼吸音の完全な正常化は短頭種の構造上難しいといわれています。
短頭種、BOAS症例に共通した生活上の注意点
◯暑さ
◯多湿
◯過剰な運動や興奮
◯長時間のストレス
◯不用意な麻酔
◯呼吸器外科
上記がずべて呼吸器症状の悪化の増悪因子となります。特にBOASを抱えながら高齢となってきているコ等には特別な注意をしてあげてください。
まとめ
慢性疾患として様々な病態を示すBOASですが、いくつかの基礎疾患から時間経過とともに様々な続発疾患を併発させながら治療が難しい状態に発展することが知られています。また、特に生後12ヶ月以内の若齢の場合、基礎疾患の治療によって良好な長期経過が得られる事が報告されており、BOASの早期発見は重要なカギとなります。診断には麻酔が必要となりますが、避妊や去勢を行う機会がある際には、BOASの存在を疑って、基礎疾患の評価を一緒に行っておくことで早期発見、早期治療に繋がります。短頭種をお家に迎えられた際には『自宅での観察ポイント』をみてみて下さい。
獣医師:伊藤