病院の症例

膀胱結石症

毎日行われている、排尿や排便という行動には、体内の不要なものを外に出すという目的以外にも、体内の水分やミネラルバランスの調整、細菌増殖の抑制など重要な役目があります。愛犬や愛猫の排尿、排便状況を観察する事は、体内で起こっている様々なバイオリズムを観察することにつながり、とても大切な習慣といえます。

排尿の様子を観察していて以下のような症状が気になった場合には、泌尿器疾患の可能性が疑われるため動物病院で一度相談してみることをお勧めします。
 
 ○少量の尿を一日に何度もする。
 ○尿の臭いが強くなる。
 ○排尿時に痛がって鳴く。
 ○いつも失敗しないトイレを失敗してしまう。
 ○尿に血液が混ざっている。

泌尿器疾患とは、尿を生成する腎臓に始まり、尿を膀胱へ運ぶ尿管、尿を貯める膀胱、尿を出す尿道のいずれかに問題が生じた状態を示します。
泌尿器疾患の中で、比較的多く認められるのが膀胱結石症ですが、膀胱結石症とは、膀胱内に様々な原因で石ができてしまい、石による膀胱粘膜への刺激によって慢性の膀胱炎や、石が尿道に入ってしまい尿道閉塞を合併する疾患です。石の種類や大きさによっては手術が必要になることから、注意の必要な疾患です。

膀胱結石ができる原因\ 
    細菌性膀胱炎
       細菌の感染による膀胱炎によって、膀胱粘膜 に炎症が生じた結果、膀胱内に粘膜細胞
       が脱落し、それが結石の核となる。
  尿の濃縮
      
飲水量の減少や、排尿回数が少ないと、膀胱内で結石の成分が濃縮され結 晶化する。
  食事
      
肉類、乳性品、緑黄色野菜の過剰摂取
  その他
      
肝臓疾患やホルモン疾患など

膀胱結石の治療
     
内科療法
       
薬物投与や食事の変更、生活習慣(水分をよく取らせて、排尿回数を増やす)の改善に
        よって治療ができる場合があります。膀胱結石の種類や原因によって、対処方法が異
        なるため、それぞれの症状にあった治療法の検討が重要となります。
   外科療法
        
石が大きい場合、内科療法で改善しない場合には、膀胱粘膜の損傷の拡大防止や、
        閉塞を防ぐ目的で手術による治療が選択されます。

手術の実際(画像は白黒に処理してあります)
皮膚の切開は最小限で行い、膀胱のみを体の外に引っ張り出します。
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膀胱を切開した後、金属製の細い筒状の道具で、尿を吸引しながら膀胱内の結石を一つ一つ丁寧に取り出していきます。
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実際に取り出した様々なタイプの膀胱結石の写真です。色や形は結石の種類によって様々です。
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膀胱結石には、シュウ酸カルシウム結石、ストラバイト結石、尿酸結石をはじめ様々なタイプの結石があります。どのタイプの結石かは、結石を取り出し結石分析という検査に出して調べる必要があります。どのタイプかによっても治療方法が異なることから、適切な診断と治療方針が重要となります。

異物による腸閉塞

愛犬や愛猫が、食べ物以外の物(異物)を誤って飲み込んでしまったという経験をされている飼主さんは以外に多いかも知れません。大半の場合には吐き出したり、便から出たりでホッとする事が多いのですが、異物は、その形状や大きさによっては腸の途中でつまってしまい、腸閉塞へ発展する危険性をはらんでいるので注意が必要です。異物を誤って飲み込んでしまった場合、異物は以下のいずれかの経過をとります。

①食道にひっかかってしまい、食道の通過障害や食道炎の原因となる。
②嘔吐によって吐き出される。
③胃の中に留まり、胃炎の原因となる。
④胃の中から腸の中に入り、腸炎や腸閉塞の原因となる。
⑤糞便とともに外に出される。

上記のどの経過をたどるかは、飲み込んだ異物の形状、動物の大きさなどによっても様々となります。また、症状が出るタイミングや、嘔吐や糞便から排出される時期も異なるため、内科療法や外科療法、内視鏡による摘出や手術による摘出など、経過観察の期間や治療方針の決定は慎重に行う必要があるのが特徴です。

異物による腸閉塞
胃で消化されない異物のうち、比較的細長い形状のものや、先細りの形状のものは、胃を通過して腸の中に入りやすいと考えられます。小さなものであれば、腸に入った後に、スムーズに流れて糞便とともに外に出されますが、大きなものの場合には、腸の途中で動かなくなり腸閉塞を起します。

腸閉塞の症状
○元気がなく、うつろな様子。
○食欲がない。
○食べても飲んでもいないのに、何度も大量に液体を吐く。

※腸閉塞は進行すると、腸の壊死を起し、壊死部分からの細菌感染による敗血症を合併して,致死的な経過をたどってしまいます。

腸閉塞の診断
身体検査や血液検査、レントゲン検査で腸閉塞が疑われた場合、以下の方法で診断します。
○バリウム検査
バリウムを飲ませて、経時的にレントゲン写真を何枚も撮り、バリウムの流れに異常があるかを確認する検査です。
○エコー検査
腸管の中をエコー(超音波)を使用して透視することができます。腸管内に異常な内容物があるかを確認する検査です。

エコー検査の実際
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画面中央の黒い部分を、シャドウと呼びます。シャドウは、腸管内の異物にエコー(超音波)が反射することで生じる扇状の影で、このようなエコー検査所見が認められた場合には、腸管内異物と診断されます。

実際の手術時の所見(画像は白黒に処理してあります)
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矢印の示す正常な腸管と、その下で閉塞を起こして異常に拡張した腸管の写真です。本来であれば同じ太さ、同じ色であることからも、腸管の強いダメージが生じていることが疑われます。

異物による腸閉塞は、異物を誤飲してしまったことが目撃されていない場合や、レントゲンには写らない場合には、診断に時間がかかることもあります。気になる症状が認められた際には早めに動物病院を受診することが大切です。

歯石除去

歯石
歯石とは、歯に付着した歯垢と、唾液中に含まれるカルシウム等が反応して石灰化した固形物です。数年間かけてじょじょに歯の表面に蓄積し、口臭や歯肉の後退、また近年の報告ではこの歯石に付着する口腔内細菌が傷んだ歯肉から血管内へと進入し、心臓の病気を起こすことが明らかになっています。歯石な非常に硬く、一度ついてしまうと自宅での除去が難しいため動物病院での除去が必要となります。

歯石の除去方法
①動物の体を保定し、ハンドスケーラーという道具を使って少しずつ除去する方法
②鎮静剤を使用し、少し眠い状態にして、ハンドスケーラーで除去できる範囲を全てとる方法
③全身麻酔を使用し、超音波スケーラーという機械で全ての歯石を除去する方法

歯石は口腔内環境の悪化に伴って付着してくるものと考えられます。注意が必要なのは、上記のいずれの方法も、結果的に付着している歯石を除去しているだけであるということです。歯石に対する対処方法を考える場合、口腔内環境の改善というのが本来の課題であることを考えてあげることが大切といえます。

口腔内環境の改善方法
ポリッシング
歯の表面を特殊な研磨剤で研磨してツルツルの状態にします。歯石の再付着防止効果が高く、歯石処置をする場合に必須の処置と考えられています。問題点としては全身麻酔が必要という点です。
ハミガキ
歯ブラシやガーゼ、指サックを使用して、歯のヌメリ(プラーク)を毎日除去する必要があります。成犬になって急に上手にできるものではないので、子犬の頃からの練習が大切です。
各種酵素剤
本来唾液中に含まれる酵素を使った各種歯磨きペーストがあります。歯石が生じやすい環境の改善に直接作用させることができます。

これらの歯石除去や口腔内環境の改善方法は、犬の性格や年齢、歯石の付着状況などで異なると考えられます。これらの事をあらかじめ相談をして決定します。

写真は全身麻酔を使用して、超音波スケーラーで除去しているものです。DSCF9733pDSCF9734pppp
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また、ポリッシングには2種類の研磨剤を使用して丁寧に仕上げてあげることがポイントです。
左の写真が荒削り用の緑の研磨剤、右が仕上げ用の黄色い研磨剤です。
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歯石の予防
歯石を除去した後は、再び歯石の付着が生じないように、日常の管理による予防が重要と言えます。歯石の予防には、歯の表面にこびり付いたヌメリ(歯垢)を除去する必要があります。歯垢の除去に有効とされる市販の歯磨きガム等も販売されていますが、歯ブラシや指サック等を用いた直接の歯磨きが最も効果的です。
歯石が原因で歯肉炎になってしまうと、痛みにより口に触られるのをとても嫌がるようになります。問題が起こってから歯磨きの習慣をつけるのは難しい場合がありますので、幼い頃から口の中に触られる練習をしておきましょう!

眼瞼内反症

眼瞼内反症とは、まぶたの縁が内側へめくれてしまう疾患です。まぶたの毛と眼球が接触してしまうことで、眼球に痛みが発生し、まぶたの痙攣や様々な角膜(眼の表面)の障害を引き起こしてしまう事が知られています。

眼を閉じていることが多かったり、ショボショボしていたり、涙や目ヤニが多い、眼が赤いなどの症状で発見されることが多いのが特徴です。

内反症の原因
 構造的な発症:生まれつきまぶたの皮膚が長く、余った皮膚が内側にめくれる(内反)ことで
                           発症します。
 二次的な発症:逆さまつげ、眼の表面の外傷や感染による眼球痛、皮膚病や老化によるま
           ぶたの緩みなどで発症します。

内反症の治療
逆さまつげや、眼の表面の外傷や感染があれば、それらの治療を行うことで改善することがあります。毛が眼球に接していることで治療経過が悪い場合には、一時的に仮縫合や医療用のボンドを用いて内反を矯正しながら治療を行う必要があります。
上記の治療でも改善できない場合や、生まれつきまぶたが長いことで発生している場合には、外科手術の検討が必要になります。

内反症を起こしてしまったネコちゃんの写真です。
まぶたの下側(矢印)のラインが内反してしまっています。
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生まれつきの内反症と診断された場合、指でまぶたを正常な位置に戻し、黄色い線の範囲(内反している部分)を切除範囲とする眼瞼内反症の外科手術が適応となります。内反症の手術の場合、切除範囲が狭すぎると内反症が改善されず、切除範囲が広すぎると逆に外反症をおこすことから、切除範囲は検討を重ね慎重に決める必要があります。
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手術では、予め決めた切開線に沿って、皮膚及び皮下組織を除去していきます。まぶたを動かす筋肉や神経を傷つけないように細心の注意が必要です。
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縫合が終わり、矯正したまぶたが正しい位置にくれば手術が無事終了です。
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手術後約10日目で抜糸となります。
まぶたのラインも確認でき、しっかりと開眼できています。後は毛が生えそろうだけです!
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骨折(指の骨)

体の小さな犬種の場合、ちょっとした高さからのジャンプや、足先を物にぶつけてしまっただけでも、力の入り方によって指の骨を骨折してしまうことがあります。
何かの拍子にギャンと鳴き、足先を浮かした状態のままケンケンで歩いていたり、足先が腫れていて熱っぽく、痛がる様子があれば指の骨の骨折が疑われます。

指の骨折の治療方法
ギブス固定

骨折部が骨の中央付近で、骨のズレの少ない場合に適応となります。特に、小指や人差し指の骨折に有効な方法です。通常4~8週間のギブス固定が必要になります。
外科手術
ギブス固定で治らない場合、3本以上の骨折が認められる場合などで、外科手術が適応になります。骨折の状況により、プレート固定やスクリュー、ピン固定などが選択されます。

写真は人差し指と中指を骨折してしまったトイプードルのレントゲン写真です。
骨折の状況から、ギブス固定が適応となります。
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鎮静処置により痛みをなくした状態で、特殊なテープの巻き方で骨折してしまった指に
牽引をかけます。
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ギブス固定をするためのクッション材を巻きます。
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巻くと固まる特殊な包帯を使用してギブスを作成します。
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ギブス固定の場合、元気になって動き回ることで生じるギブスのズレや、骨折部のズレ
の確認のために頻繁なレントゲン撮影が必要になります。
①→④にかけて骨が少しずつ修復されていく過程が観察されます。骨折から7週間で
④の段階まで修復されギブス固定が終了となります。
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下の写真は、人差し指の一本だけを骨折してしまったビーグルの写真です。
骨折の状況からギブス固定が適応と考えられます。
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しかしながら、年齢や活動性、指の靭帯による牽引などの条件で、ギブス固定で治癒できない場合があります。こうした場合、一定期間ギブス固定で経過観察を行い、治癒が難しいと判断された場合には外科手術が適応となります。写真はラグスクリューという方法です。斜めに入った骨折線に対して圧迫をかけながら整復するのに適した治療方法となります。
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3本以上の骨折で負重肢が折れてしまっている場合には髄内ピンによるピン固定に副木などの外固定を組み合わせた方法が必要となります。外固定単独やスクリュー固定と比較すると切開も大きくやや侵襲的な治療法とは言えますが、外固定やスクリューの適応が厳しい骨折の形態においてはとても有効な治療法といえます。
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骨折の治療方法には動物の体格や性格、年齢、骨折部位や骨折の形態によって様々な治療方法が選択されます。必ずしも、骨折=手術や骨折=ギブス(外固定)ではないので、それぞれの骨折に合わせて、メリットとデメリットを十分に検討し、状況に合わせて慎重に選択することがとても重要と考えられています。