病院の症例

膵炎

ゴハンを食べても水を飲んでも何度も何度も吐いてしまう場合には膵炎という病気を疑う必要があります。膵炎は、腹痛による震えや元気消失、食欲廃絶、嘔吐、下痢、発熱などの多様は症状を示します。また、これらの症状が治ったり再発したりを繰り返すこともあります。膵炎の症状は、それぞれ単独で認められたり、複合して認められたりするため診断の難しい病気の一つとしても考えられています。重篤例では死亡することもあり、注意深い診察が要求される疾患です。

 膵炎には急性膵炎と慢性膵炎があります。急性膵炎は、膵臓から分泌されているタンパク分解酵素が、様々な原因により過剰に分泌され、周辺組織の炎症や膵臓の自己消化を起してしまう病気です。慢性膵炎とは、自己消化が慢性的に進んだ病態を示し、膵臓機能障害をはじめ、様々な臓器の障害や重篤な感染症を引き起こすといわれています。

院で実施している膵炎の診断
嘔吐や腹痛、食欲不振が強く出ている場合や、通常の治療ではなかなか改善しない場合には以下の手順で検査を実施します。

○血液スクリーニング検査
 通常の健康診断時に実施する血液検査項目を確認して、膵炎以外の病気がないかを調べ ます。
○腹部レントゲン検査
 胃内異物や腸閉塞など、膵炎と同様の症状を示す病気の可能性を調べます。
○腹部超音波(エコー)検査
 下行十二指腸の特定の領域をエコーで見ることによって膵臓を確認することができます。

【膵炎の超音波所見】
正常な膵臓は、腹腔内の脂肪と同様の見え方をするため、あまり描出されません。膵臓に炎症が起こると下図の線で囲まれた領域で黒く映る膵臓が描出されるようになります。このような所見が現れると膵炎の可能性が強く示唆されます。
急性膵炎

膵炎の確定診断
○犬膵特異的リパーゼ測定:上記までの検査で膵炎が示唆された場合に実施し、確定診断を行います。

膵炎の予後
初期
の治療に反応し再発を防げれば治療は成功です。しかしながら、治療に反応しなかったり短期間で再発してしまう場合には、慢性膵炎への移行を疑う必要があります。膵炎は積極的な治療(点滴入院や嘔吐抑制剤)を必要とし、低脂肪食での安定化や再発防止も予後に重要な疾患です。気になる症状がある場合には、早めの受診をおすすめいたします。

前庭疾患

首が傾いた状態(斜頚)から戻らなくなり、旋回運動や眼振などの特徴的な症状を示す疾患を前庭疾患と言います。前庭疾患のその他の症状には、嘔吐や涎、起立不能などの症状も認められる事から、他の疾患との鑑別も重要となる疾患です。

前庭疾患の原因
中枢性(脳)と末梢性に分けられます。代表的な原因には以下が挙げられます。

○中枢性前庭疾患
・脳の外傷や出血
・細菌感染
・肉芽腫性髄膜脳炎
・脳腫瘍
・脳梗塞

○抹消性髄膜脳炎
・内耳炎/中耳炎
・内耳の腫瘍
・先天性前庭症候群
・老犬性前庭疾患(高齢犬における最も一般的な原因)
・アミノグリコシド系抗生剤の耳毒性
・その他

前庭疾患の鑑別
これらの鑑別には身体検査に加えて、レントゲンや血液検査、必要に応じて脳のMRI検査などを用いて鑑別する必要があり、原因によって予後が大きく変わるため注意深い診察が必要となります。身体検査での鑑別方法には以下のような方法が挙げれます。

○中枢性前庭疾患
・眼振は水平性、垂直性、回転性のどの方向にも起こる。
・頭の向きを変えると眼振の方向が変わることがある。
・前肢や後肢の神経学的異常を伴うことがある。

○抹消性前庭疾患
・眼振は水平性もしくは回転性
・頭の向きを変えても眼振の方向は変わらない。
・前肢や後肢の神経学的異常は通常認められない。
・ホルネル症候群(外観的には眼の瞬膜の異常)の併発。

※ 上記の身体学的所見は絶対的なものではないので鑑別には注意が必要です。

前庭疾患の治療
原因により異なります。感染性が疑われた場合には抗生物質、炎症性が疑われた場合には抗炎症剤の投与が必要となります。腫瘍が疑われた場合には、発症している症状に対しての注意深い検査および治療計画を立てる必要がありますが、完治が難しい状況が多いとされています。

前庭疾患はとつぜん発症することも多く、進行性に悪くなる場合があります。治療方針の決定には細心の注意が必要な疾患です。
DSCF9770111写真は治療開始7日目のモモちゃん。

治療前は、首が大きく傾き、眼振や起立困難などの症状が出ていました。
治療開始7日目に、わずかな首の傾きが残るものの、眼振も治まり、自力で歩いて診察に来てくれました。
『モモちゃん、良かったね!』

異物の誤飲

突然元気や食欲がなくなったり、何度も吐くような症状が出た場合には、異物の誤飲を疑う必要があります。異物の中には便と一緒に外に出たり、何週間か胃の中に留まってから突然吐き戻されたりすることもありますが、腸閉塞や慢性胃炎、胃穿孔の原因となる場合があることから注意が必要です。腸閉塞や胃穿孔は、命にかかわる病態へ発展することがあり、異物の誤飲をしてしまった際には注意深い経過観察が必要です。

(代表的な異物)
犬:梅やプラムの種、骨、ゴム性のオモチャ、トウモロコシの芯、針や硬貨、小さなボール
猫:ビニール、紐類

(異物の除去方法)
催吐処置
誤飲した直後で小さいものや、尖りのない異物の場合、催吐作用のある薬剤を静脈内に注射して吐き戻す方法です。
内視鏡
催吐処置では上手く出せないものや、針や骨などの尖った異物以外の異物は、全身麻酔下で実施されます。
手術
大きな異物や、上記のいずれの方法でも上手く出せない場合に実施されます。

動物病院における内視鏡の普及によって、従来は手術でしか取れなかった異物であっても、お腹を切らずに取り出せる事が増え、動物の体の負担を大幅に減らすことができるようになってきています。

 内視鏡の先端には、直径2mm~3mmの穴が開いていて、そこに内視鏡カンシ
というものが入ります。内視鏡カンシは、普段は筒状に収納されています。
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内視鏡が胃の中に入ると、筒状に収納されていた内視鏡カンシを自由に広げることができます。写真は、バスケットカンシと呼ばれ、異物を包み込むように掴むことができます。
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把持カンシです。異物を指でつまむような動きをします。
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写真は、針を飲み込んでしまったM・ダックスのレントゲン写真です。針などの非常に尖った異物は催吐処置では出すことができず、また腸管壁を貫通してしまうことが多いため、早急な対処が必要となります。
写真のダックスちゃんは内視鏡で無事に取ることができ元気に帰宅しました。
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異物の除去方法は、動物の大きさや種類、異物の形状、誤飲した日時によって変わります。また対処が遅れると命にかかわることもあり、注意深く治療方針を立てる必要があります。