悪性黒色腫の治療法~これまでの治療法とこれから

悪性黒色腫(メラノーマ)は、メラニンと呼ばれる黒い色素を産生する悪性腫瘍で、非常に強い局所浸潤性と高い転移率から、病気の進行が速く根治が困難な腫瘍のひとつです。

メラノーマは爪床、肉球、皮膚、肛門嚢、消化管など体の様々な部位に発生しますが、犬では口腔内での発生が最も多く、腫瘍が大きくなると出血や疼痛により、生活の質が大きく下がってしまいます。

<口腔内メラノーマの特徴>

口腔内メラノーマはメラニン色素を含むため、黒色でやわらかく表面が潰瘍化していることが特徴ですが、メラニン色素が乏しく黒色ではない腫瘍も3割ほど含まれています。

また、元々口腔内色素が多い犬では、正常でも黒色の部位があったり、黒色のしこりでも良性病変であることも多いため、メラノーマとしっかり区別することが重要です。

【下顎の先端に発生した腫瘍】

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<治療法>

治療法は、口腔内の腫瘍を切除する局所療法と転移を予防・治療する全身療法に分けられます。

局所療法は外科治療が基本で、腫瘍のまわりの正常な組織を1~2cmを含む切除や、顎の骨を含む広範囲な切除が必要となります。これは、メラノーマがまわりの組織へ急速に拡がりやすい特性を持つためであり、腫瘍だけを含む最小限の切除ではほぼ全例で再発してしまいます。

顎の切除を実施後には、舌が出たままになったり、上顎や下顎が短くなるなどある程度の見た目の変化はありますが、手術以前の「その子」らしさを維持できることが多いです。また、術後飲食がしにくくなることもありますが、多くの場合はうまく順応して自力での飲食できるようになります。また、十分な量の飲食が難しい場合には、胃・食道チューブなどで一定期間飲食をサポートすることも可能です。

しかし、外科手術が困難な部位(上顎の裏や舌の奥など)に発生した場合や、広範囲の切除が実施できない場合には放射線療法が非常に有効な治療法です。

放射線のみで治療した場合の再発率は45%と高いものの、外科手術と放射線治療を組み合わせると26%と報告されています。

<放射線治療の適応>

  • 外科手術を実施したが、まわりの組織に腫瘍細胞が残存している場合の局所補助治療として
  • すでに転移などが見られるが、疼痛や出血を抑えることを目的とした緩和治療として
  • 外科手術が困難な部位に対して

放射線治療は複数回の全身麻酔が必要であることや、道内では実施可能な施設が大学に限られること、放射線障害などが起こりうることなど課題が多くなかなか治療に踏み込めないこともありますが、治療そのものに痛みを伴わず、腫瘍の十分な縮小効果が得られることが多いため、有用な治療法のひとつであると考えられます。

全身療法は、カルボプラチンによる抗がん剤治療やパラディアによる分子標的薬の内服による方法などがありますが、いずれも効果は限定的で、これらの薬剤のみでの治療効果は期待できません。しかし、外科治療や放射線治療後の転移を予防するための治療として行われることもあります。

メラノーマの転移に対しては治療の選択肢が限られており、十分な治療効果も期待できない状況でしたが、近年ではメラノーマの高い転移率に対抗すべく様々な新しい治療法の研究が行われています。

<新しい治療法>

〇電気化学療法

局所治療として、腫瘍部位に電気刺激を加え腫瘍細胞に抗がん剤が浸透しやすい状況を作り、腫瘍そのものに抗がん剤を投与することで腫瘍を縮小させる治療法です。

局所に高濃度の抗がん剤が浸透することで、効果的に腫瘍細胞を死滅させることができ、

かつ全身への抗がん剤の副作用が起こりにくいというメリットがあります。

国内ではまだほとんど導入されていませんが、外科・放射線治療とともに非常に効果が期待できる治療法として拡がっていくのではないかと思います。

~OnkoDisruptor®のHPより引用

〇がんワクチン(オンセプト®メラノーマ

犬用のがんワクチンとして承認されたもので、国内では限られた条件の中(ステージ2または3と診断され、外科や放射線治療を実施した犬)で接種可能なワクチンです。

ワクチン接種によって犬の免疫機能を上げ、メラノーマを攻撃することを狙いとした治療法で、抗がん剤に替わる全身転移の抑制が期待されています。報告により効果は様々ですが、一部の症例では有意な生存期間の延長が認められています。

〇免疫チェックポイント阻害薬

2018年ノーベル賞医学生理学賞を受賞し脚光を浴びたオプジーボ®は、人の悪性黒色腫をはじめ様々ながんの治療薬として実用化されています。

本来、体内に存在する免疫細胞は腫瘍細胞を攻撃しようと働きますが、腫瘍細胞にはそれを回避しようとする働きがあります。オプジーボ®は腫瘍細胞の免疫を回避する部分に作用し、免疫細胞が正常に腫瘍細胞を攻撃できるよう助ける働きがあります。

現在、オプジーボ®と同様の働きを有する犬用の新薬が開発され、臨床研究が行われています。山口大学の研究によると転移の見られる症例の約1/4で効果が認められたと報告されており、新たな治療法の一つとして期待されています。

今後少しずつ予後が改善される子が増えていくことを願い、新しい知見を日常の診療にいかしていきたいと思います。

  • メラノーマについて、様々な治療法やそのメリット、デメリットについて詳しく知りたい方
  • 進行したメラノーマで、できることがないと言われたが緩和治療をしてあげたいとお考えの方
  • 口腔内にしこりや出血がありご心配な方

など、どうぞお気軽にご相談ください。

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